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「宝の山」のはずが大失敗も なぜ、介護事業者の障害福祉事業進出は難しいのか①

 高齢者介護を手掛ける事業者の中には、障害福祉サービスも行っているところが数多くあります。
特に、放課後等デイサービスの運営が人気を博した時期には、高齢者介護事業者が新規事業として参入するケースが数多く見受けられました。
それらの事業者の中には、ある程度の規模にまでサービスを拡大させたところもありますが、なかなか思うように進まない事業者も多いようです。
その理由は何なのでしょうか。

 そこで今回から2回にわたって、障害福祉サービスに進出した介護事業者が苦労する点について解説します。
 

①利用者の年齢・身体状況の個人差

 高齢者介護の場合、利用者の年齢層はそれほど幅広くありません。
それに対し、障害福祉サービスは幅広い年齢が対象です。
例えば、障害者グループホームには一般的には18歳~64歳までが入居できます。
孫と祖父母ぐらいの年齢差のある人たちが同じ屋根の下で生活をするわけですから食事の好みなど様々面でジェネレーションギャップが生じます。

これほどの年齢差のある人たちをどうやって一つのコミュニティとしてまとめていくかという点について、ノウハウに乏しい新規参入の介護事業者では苦労することが多いようです。

 また、障害の程度も個人差が大きいため、より一人ひとりに合わせたケアの提供が求められます。

 以前、取材した放課後等デイサービスでは、「利用者にはお金に関するあらゆることを学んでもらう」をモットーにしていました。
その一環として、毎日一定額の模擬硬貨を手渡し、デイ内の模擬店で買い物体験をしてもらっています(余談ですが、職員が詐欺師や高利貸の役を演じて、お金に関するトラブルの実態を体験してもらうこともあるそうです)が、その際にお金をどのような形で渡すかは、1人ひとり全く違うそうです。

例えば200円の場合、Aさんには「100円玉1枚・50円玉1枚・10円玉5枚」で渡しますが、Bさんには「100円玉1枚・10円玉10枚」で渡します。
その理由についてデイの管理者は「Bさんは、10円・100円は理解できるが、50円という概念が理解できないので」と語ります。

これぐらいに細かい個別対応をしなければ、障害福祉サービスをすることは難しいのです。
 

②利用者からスタッフへの暴行

 高齢者介護事業所でもスタッフが利用者に暴行されるケースは見られます。
ただし、利用者は身体的に衰えた高齢者ということもあり、スタッフが大ケガをするようなケースは少ないようです(もちろん「軽度だから暴行があってもいい」わけではありません。スタッフの安全は利用者の安全と等しく重要です)。

また、相手が高齢者ならば、仮に暴れたとしても女性スタッフでもそれ抑えることが可能でしょう。

 それに対し、障害福祉サービスは10代・20代の若者、しかも身体的には全く元気な若者が利用をしているケースがあります。
そうした人が暴力を振るった場合、スタッフは大けが、あるいは死亡する危険性があります。

また、暴れる利用者を女性スタッフが抑えることは難しいでしょう。
特にそうしたリスクが高い事業所では屈強な男性スタッフを確保していることもありますが、慢性的な人手不足の中では、それも難しいのが現実です。

 精神疾患専門の訪問看護事業所では「訪問したら、利用者が一心不乱に包丁を研いでいた」などという背筋が寒くなるようなケースがたまにあるそうです。
スタッフには「もし、家に入ったときに異変を感じたら、声をかけずにそのままドアを閉めて出てくるように」と指導しているでしょうが、そこまでの危険察知能力を持ち、かつ冷静に対応できるスタッフを育てるのは難しいでしょう。(次回へ続く)
 
 

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