介護業界 嚙み砕き知識・ニュース

「身体的虐待は殺人未遂」 介護スタッフへの意識付けが重要

 先日、大阪市内で訪問ヘルパーがサービス利用者への殺人未遂容疑で逮捕される事件がありました。これまでにも利用者へ身体的虐待を行ったヘルパーが刑事上の責任を追及されるケースはありましたが、容疑は「暴行罪」「障害罪」のことが多く、今回のように殺人未遂に問われるのは珍しいケースです。

 単なる「暴行・障害」と「殺人未遂」の差は、加害者側に「相手を殺そう」という意思があったかどうか、または「相手が死ぬかもしれない」という認識があったかどうかです(もちろん、それ以外にも様々な要素が関係します)。
「身体が虚弱な要介護高齢者に、この程度の暴行をしたら死ぬかどうか」という判断は、一般の人よりも日々要介護高齢者に接している介護職の方が正確にできると思われます。この点から言っても、介護現場での身体的虐待に殺人未遂罪が適用されるケースはもっと多くても不思議ではありません。

 日本では、「窃盗」を「万引き」と言ったり、「いじめ」を「悪ふざけ」「からかい」と表現したりするなど、犯罪行為を「軽微」「穏やか」なイメージの言葉で表現しようという風潮があります。これは犯罪をした人を管理監督する側の「自らの責任をなるべく軽くしよう」という保身が原因と思われます。介護現場での虐待でも同様のケースがみられます。

さらに介護現場の場合は、上記の理由に加えて「認知症などが原因で暴力を振るう利用者がいるなど、スタッフ側が被害者になるケースもある」「人手不足・低賃金など厳しい労務環境でスタッフにストレスがたまっている」などのスタッフ側の事情を斟酌する傾向があります。また「懲戒解雇や自宅謹慎などの厳しい処分を課したら、人手不足の中で益々現場が回らなくなる」という完全な「身内の論理」で虐待に対して厳しく対応できない介護事業所もあります。

 この結果として、虐待防止対策と言えば、「利用者の尊厳を大切にしましょう」という倫理的な研修が中心なっていました。しかし、こうした対策だけでは虐待を完全に防ぐことができないことは、皆さん自身がよく実感しているかもしれません。
こうした中で、介護現場での虐待に「殺人未遂」が適用されました。単に「虐待はいけないことです。止めましょう」と諭すよりも「重い刑事罰を科せられる可能性がある」という現実を認識させることの方が、高い抑止効果を期待できるのではないでしょうか。

 では、実際に殺人未遂で有罪が確定すると、どのような刑罰が科せられるのでしょうか。
刑法では「死刑又は無期若しくは5年以上の懲役」と定められています。また「執行猶予はありません」。執行猶予は懲役3年以下の判決が対象だからです(※情状が酌量されるなどして、懲役3年以下が妥当と判断されて、結果的に執行猶予がつくケースはあります)。弁護士などが刑罰について解説するサイトなどによると、懲役3~7年程度に収まるケースが多いようですが、被害者の数や計画性の有無などによって大きく影響します。

 いずれにせよ「決して軽い刑ではない」ということです。「ストレス解消」などという軽い気持ちで、利用者に暴力を振るうことが、自分の一生に取り返しのつかない傷跡を残すことになることをしっかりと認識させる。これが虐待防止の最も確実な方法なのではないでしょうか。

 つい先日、神奈川県の高齢者住宅で3名の入居者をベランダから転落死させたとして殺人罪に問われていた元介護スタッフの死刑が確定しました。このことも踏まえて、「自身の行為と、それに対する法的責任」をしっかりと認識させる機会をつくってみてはいかがでしょうか。
 

掲載PR一覧

  • 老人ホーム入居相談窓口