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「宝の山」のはずが大失敗も なぜ、介護事業者の障害福祉事業進出は難しいのか②

 高齢者介護で着実に業績を拡大させた事業者が、「そのノウハウが活用できる」と障害福祉サービスに進出するも、思うように業績を拡大できない…といったケースが見受けられます。
その理由について、前回は「利用者の個人差が高齢者介護に比べて大きい」「スタッフが暴行されるリスク」の2点を紹介しました。

 ほかにはどのような理由が考えられるのでしょうか?

③スタッフへのセクハラ問題

 高齢者介護でも、スタッフが利用者から身体を触られるなどといったセクシャルハラスメントを受けることは少なくありません。
しかし、相手は要介護の高齢者ですから、さすがにそれ以上の直接的な行為に及ぶケースはほとんど無いと言ってもいいでしょう。

 それに対して障害福祉の場合は、身体的には健康な若者も多く利用しています。
こうした人は、普通の人と同じように性欲があります。
その対象がスタッフに向けられる可能性も当然あり得ます。
そして前回のコラムの②の場合と同様に、力の強い若い利用者が本気で暴れた場合には、女性スタッフではそれを防ぐことは難しいと言わざるを得ません。

 また、「利用者の性欲に関するスタッフの理解度の違い」もこの問題を語る上で無視できません。障害者の性欲の存在は以前から認識されており、それを処理する専門のサービスなども存在します。
障害福祉に関わる人たちも「利用者には性欲がある」ことは当たり前に認識し、対応してきました。

 一方、高齢者介護には「利用者には性欲がない」という考えが前提にあります。スタッフも「セクハラを止めてもらおう」と考えはしますが、高齢者の性をタブー視しているためか、問題に正面から向き合うことがありませんでした。高齢者介護のスタッフが障害福祉の現場に就いた場合は、こうした違いに戸惑うことが多いとも言えます。
 

④利用者家族との向き合い方

 事業者に無理難題を要求してきたり、執拗なクレームを入れたりする面倒な利用者家族は高齢者介護業界にも障害福祉業界にもいます。しかし、両方のサービスを手掛けている事業者によると「面倒な家族の質は異なる」とのことです。
具体的にどういうことなのか、詳しく話を聞いてみました。

 高齢者介護の場合、家族は利用者の子どもであることが大半です。
クレームは言ってくるものの「本当は自分が介護をしなければならないが、それができずに施設に預けている」という事業所に対する引け目や遠慮がどこかにあります。
そのため、クレームについても、言ってきた家族が非を認めたり、比較的簡単に「落としどころ」を見つけたりできるそうです。

 それに対し、障害福祉の場合は、家族は利用者の親であることがほとんどです。
親は、無意識のうちに子どものことを第一に考えます。
冷静になって考えてみれば、非常識で論理的に破綻している要求・クレームであっても、「自分が子どもを守ならなくては」という意識から、ゴリ押ししてくることが多く、対応が難航することが少なくないそうです。

 このように、高齢者介護と障害者福祉は、一見すると「弱者を支える」という点で似ていますが、利用者の実態やスタッフに求められる能力などは大きく異なります。
こうした違いをしっかりと理解せずに、安易に「障害福祉分野は有望だ」と参入した介護事業者が苦労をしているケースが多いようです。

 関西を中心に、医療・介護サービスを手広く手掛けるグループの介護事業会社の社長は「当社でも障害福祉事業をできないかと考え、いくつかの事業所を見学したことがありました。しかしその様子を見て『とても今の体制・人員では無理』と判断せざるを得ませんでした」と語っていました。
 

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