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「訪問+通所」サービス創設見送り その事情と介護事業者がとるべき戦略は

 2024年の介護保険制度改正の目玉の1つとされていた「訪問+通所」のサービス(以下:新サービス)創設が、急転直下「見送り」となりました。

国は「4月以降、実証事業などを行って効果を検証する」としていますので、2027年以降に制度化される可能性は残っていますが、新サービス提供に向けて準備を進めてきた介護事業者にとっては足元を救われた形になりました。
 

 「地域密着型サービスとする」「ケアマネジャーは外部」などの詳細まで発表されていた新サービスがなぜ見送りとなったのか。
今回はその当たりの事情について検証します。

国が新サービス創設を目指したのには、大きく2つの理由があったと考えられます。

まずは、介護人材の中でも特に人手不足が深刻とされている訪問ヘルパーの確保です。

一部では訪問ヘルパーの有効求人倍率は15倍ともいわれており、就労者の高齢化も進んでいます。
所事業所のスタッフが訪問業務もできるようにすることで、人材不足を解消しようという狙いがありました。

2つめが「在宅生活の継続・長期化を図る」です。

通所サービスを利用する高齢者の場合、利用日は運動やリハビリテーションを行ったり、栄養バランスに優れた食事を摂取したりすることでADLの維持改善が図れます。
 

しかし、それ以外の日は通所事業者が関与できないため、運動の習慣化や食習慣の改善が難しいという課題がありました。
通所のスタッフが訪問もできれば、自宅でも運動の実施や正しい食生活を促すことができます。

結果として在宅生活をより長く行える環境を整えることにつながります。
「施設から在宅へ」という国の施策に沿った取り組みといえるでしょう。


 

では、なぜ、新サービスの創設が見送られたのでしょうか?

 1つには通所事業者側の反発があったことです。
通所事業者のスタッフと訪問ヘルパーでは求められる能力に違いがあります。

通所事業者からは「今のスタッフを訪問業務ができるまでの水準に育成していくのは負担が大きい」という声が上がっており、実際に新サービスがスタートしても参入する通所事業者は少ないのではないかとの見方がありました。

また、厚生労働省の審議会などでは「新サービスは介護保険制度を複雑化させるだけではないか」という批判の声がありました。
例えば、現在、介護保険サービスには小規模多機能型居宅介護事業所があり「訪問+通所+泊まり」のサービスを提供しています。

この中の「訪問」と「通所」を利用すれば、新サービスと同じ形になります。
現存の制度と重なるサービスの創設を疑問視する意見が根強くありました。

また、新サービスが地域密着型サービスとされました。

これにより地域密着型ではない通所事業所の場合、利用者の中で新サービスに移行したくても出来ないケースが出てきます。
こうした点が「新サービスは使いづらい」との印象を与えたとも思われます。

このように、思いのほか「逆風」が強かったことから新サービスは見送りになりました。
しかし、国がこうしたサービスの創設に向けて動いたことは「通所+訪問」という形態が効果的であり、その普及が今後の社会に必要と考えたからといえます。

従って、介護事業者としては、これに類似したサービスを手掛けていくことが、今後の事業展開において重要になるのではないでしょうか。

 例えば、通所事業者は、利用者の要望に応じて生活上の困りごとなどをサポートする保険外出張サービスなどを手掛けることで、新サービスと似たサービスの提供が可能となりますし、将来、新サービスが制度化された際にはスムーズな移行が可能になるでしょう。


介護の三ツ星コンシェルジュ
 

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