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日本生命がニチイを買収 生命保険会社が介護に進出する狙いとは?

 介護事業最大手のニチイホールディングス(以下:ニチイ)が日本生命に買収されることになりました。買収額は約2100億円と言われており、介護業界のM&Aとしては過去最大規模となります。

また、近年の介護業界のM&Aは、ソラストや創生会グループなど既に介護事業をかなりの規模で展開している企業が、事業規模の拡大を目的に行うケースが多くなっていました。
今回のように異業種の有力企業からの参入(正確には、日本生命は間接的な形で高級有料老人ホームの運営を行ってきました)は、2019年に大和証券がオリックスから介護事業(オリックス・リビング)を取得して以来で、久々といえます。

今回のニチイの身売りについては介護業界内からは「意外」「予想できた」との極端な声が聞かれます。前者は、ニチイはつい最近まで介護事業者を買収しており、M&A市場においては「買い手側」という印象が強かったことが大きいでしょう。

一方で後者は、ニチイは創業者の死後にMBOで株式を非公開化し、その後は海外ファンドの傘下に入ったという一連の流れからの発言でしょう。
しかし、売却先が日本生命という点については「予想できなかった」という声が多く聞かれます。

日本生命に限らず生命保険会社は、国内人口の減少で新規加入者増加が見込めない一方で、今後しばらくは死亡者数の増加で保険金の支払いが増えることが考えられるなど、保険業の収支の悪化が予想されます。

こうした中で保険以外の事業の柱が必要になっています。生命保険会社の事業と言えば「貸しビル」がありましたが、近年は「建築費の高騰」「テレワーク普及による大規模オフィスニーズの減少」などで以前ほどの魅力はありません。
そうした中で介護事業へのアプローチになったと考えられます。

では、生命保険会社にとって介護事業の魅力はなんでしょうか。
介護は多くの人の病気、老い、認知症、死に接することになります。
そこで得られた様々なデータを元に、利用者のニーズにマッチした保険商品の開発が可能という点が大きいと言えます。

今から15年程前ですが、大手生命保険会社の「民間介護保険」(加入者が要介護になった場合に保険金を支払う保険)について取材したことがあります。
その際にある保険会社は「商品としてあるにはあるが、表立って販売をしていないので取材には応じられない」という対応でした。

その理由について「生命保険商品というのは『加入者が補償期間内に病気になる、ケガをする、死ぬ確率がどれだけあるか」という計算に基づき、保険料や保険金額を設定する。
しかし、加入者が認知症や要介護になる確率についてはデータの蓄積がまだ十分でない。保険商品として大々的に販売するには「当社のリスクが大きい」と回答していました。

今では、どこの生命保険会社もデータの蓄積は十分でしょう。
それでもニチイという在宅から通所、高齢者住宅までを長年手掛けてきた業界最大手企業のデータは、今後の保険商品開発にとって大きなプラスになると考えられます。

現在、介護業界2位の企業はSOMPOホールディングス傘下のSOMPOケアです。
ニチイが日本生命傘下になることで、業界トップ1、2の企業が保険会社グループという図式になります。

しかし、その一方で明治安田生命が2023年11月1日に有料老人ホームを創生会グループに売却して介護保険サービス事業から撤退するなど、保険会社の介護業界との距離感については会社ごとの差が大きくなっています。

今後、ほかの大手保険会社が介護業界に対してどのようなスタンスで接してくるのかが注目されます。


介護の三ツ星コンシェルジュ

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