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訪問介護事業所の倒産件数過去最多 人材不足や物価高騰が原因か

大手信用調査機関の東京商工リサーチが2023年12月20日に発表したデータによると、同年の訪問介護事業者の倒産件数は12月15日時点で60件となり、これまで最も多かった2019年の58件を上回りました。

訪問介護事業者の倒産が増加した理由として考えられるのは、
①ヘルパー不足、②物価高騰、③競争激化の3点です。

ヘルパー不足については、コロナ禍が落ち着きをみせたことで特に飲食やサービス業などが給与引き上げなどで人材確保に力を入れるようになり、介護業界との賃金格差が広がったことが挙げられます。

訪問介護事業者にとっては求人広告費などの採用コスト増に加え、「ヘルパーが増えないことから事業規模の拡大が難しく、物価高による各種コストの増加を吸収しきれない」「ヘルパーの高齢化が進み、1人がこなせる業務量が減少する傾向にある(生産性の低下)」といった影響が出ているようです。

 物価高騰については、地方の事業所にとってはガソリン代の値上がりが特に大きいでしょう。

有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅では、管理費など介護報酬に関わらない部分の価格を引き上げることで物価の上昇分を吸収できますが、介護報酬以外の収入源がほとんどない訪問介護事業所では、物価上昇の価格転嫁が困難です。こうした点も経営難に拍車をかけています。

競争激化については、近年、介護業界ではM&Aが進み、中小規模の訪問介護事業者も次々と大手事業者や異業種企業に買収されています。

大手事業者には知名度ではかないませんし、入社後の教育研修制度や福利厚生でも大手事業者の方が充実しているでしょうから、中小・零細企業は採用面では圧倒的に不利になります。

また、訪問介護事業では、利用者が高齢者施設に移ったりして売り上げが減少することは避けられません。
その分、新規利用者を確保できればいいのですが、社員数数名といったレベルの事業者ではケアマネージャーなどへの営業活動にも限界があります。

去年倒産した事業所の倒産理由では、「販売不振」が80.0%で最も多くなっていますが、その理由はこうしたところにありそうです。
倒産した中には業歴20年以上の事業者も9社ありました。これは前年の2倍近くです。

中小・零細事業者が「地域で長年の実績」などのキーワードだけで大手と張り合っていくのが困難になってきていることが伺えます。

2024年4月の介護報酬改定は+1.59%(処遇改善0.98%含む)となりました。
その他、処遇改善加算の 1本化の効果0.3%相当、基準費用額の増額効果0.15%相当を加えると実質2.04%相当のプラス改定となります。

診療報酬との同時改定で、介護•障害福祉報酬の改定率が診療報酬の改定率を上回るのは初のことですし、改定率自体も2009年の+3.0%に次ぐ過去2番目の上げ幅となります。

当初は「コロナ禍に伴う各種補償・補助・給付などで国の財源は厳しく、2024年改定は大幅な引き下げは不可避」と言われていたことを考えると、かなりの好結果とも言えますが、介護事業者からは「物価上昇分を消費者に転嫁できないという介護事業の特殊性を考えると、これでも不十分」という声は少なくありません。

2024年以降も物価高などの状況が続くようであれば、訪問介護事業所をはじめ、中小・零細介護事業者の倒産は増えていくことが考えられます。

もちろん、それを回避するのは経営者の責務ですが、倒産が現実味を帯びてきた場合に、サービス提供が滞るなどして利用者に影響がでないようにすることも重要です。


介護の三ツ星コンシェルジュ

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