介護業界 嚙み砕き知識・ニュース

中学生への出張授業で「柔道整復師」「バイタル」… 介護業界は「伝える力」が十分か?

介護業界の人手不足が今後ますます深刻になることが予想される中で、「中学生や高校生などに介護の仕事に魅力などについて知ってもらおう」という取り組みが各地で行われています。

現役介護職などによる学校への出張授業もそのひとつです。

先日、その様子を取材する機会がありました。
しかし、正直なところ「これでいいのだろうか」というモヤモヤとした気持ちだけが残りました。

この事業の主体は市で、希望する学校に講師を派遣します。
講師は、介護事業者団体などの協力のもとで「その学校の近所にある事業所」などの点を考慮して選定します。

私が取材した出張授業は中学1年生が対象で参加者は100名以上。
デイサービス・特別養護老人ホームの職員がそれぞれ自分の仕事について15分程度話をするものでした。

さて、皆さんは自分が講師として中学校1年生に介護の仕事を説明するとしたら、どのような点に配慮しますか?

私も新聞記者時代は介護や高齢者向けビジネスをテーマに講演・セミナーをすることが多かったのですが、その際に気を付けていたのが「聴衆の基礎知識や理解力に合わせた話をする」という点です。

今回の聴衆は中学校1年生。9ヵ月前までは小学生でした。
仕事や社会のことなどほとんど知らないと言ってもいいでしょう。

彼らに介護を伝えるのであれば「専門用語は使わない」「音楽やアニメ・ゲーム、スポーツなど、中学生に身近なものに例えて話す」ことが大切です。
例えば、デイサービスは「君たちが毎日昼間に学校で勉強や部活をするように、お年寄りが通って体操などをするところ」と説明すれば理解しやすいでしょう。

ところが、実際の授業の第一声は「私は社会福祉士です」でした。
大人でも社会福祉士について正確に理解できている人は少数でしょう。

きっと生徒の頭の中は「?」で一杯だったはずです。しかし、授業はお構いなしに続きます。
「介護福祉士」「柔道整復師」「バイタル」などの専門用語が次々に出てきます。
もう、完全に生徒は置いてきぼりです。

私も介護・医療関係者に日々インタビューをしていますが、ときに相手が専門用語を連発するのに辟易することがあります。
読み手が介護・医療関係者のメディアの取材の場合にはそれでもいいのですが、一般消費者対象のメディアの場合は、そのまま書くわけにはいきません。

そうしたときは「それは、○○ということでよろしいですか?」と私の方でもっとわかりやすい表現に言い直していますが「いや、それだと微妙に違うんだよな…」と言われることが少なくありません。

このように、専門職は用語や言葉の言い回しにこだわる傾向があります。
 

しかし、肝心なのは相手に「伝わる」ことです。
100%正しい用語である必要はないのと思うのですがいかがでしょうか?
 

「介護の仕事のやりがいや魅力を多くの人に伝えたい」と語る介護職は少なくありません。
しかし、「伝える工夫」ができない人が多いように思えます。
今回の授業でも生徒に「刺さる」話ができていれば、5年後、10年後に介護の道に進む人が何十人も出ていたかもしれません。実に勿体ない話です。

介護の業界には、SNSのフォロワーが万の単位でいるインフルエンサーやYouTuberなど「伝えるプロ」が何人もいます。
 

今回のように行政が絡む授業では難しいかもしれませんが、彼らを講師に招くなどの方法もあったのではないでしょうか。

介護に対してバイアスがかかっていない大勢の若い人たちに、介護の仕事の魅力を伝える機会はそうそうあるものではありません。
しかし、現状の介護業界は、こうしたチャンスを上手く活用できていないのではないかと痛感した一件でした。


介護の三ツ星コンシェルジュ

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