介護業界 嚙み砕き知識・ニュース

医療法人が運営する高齢者住宅で 「医療充実」をアピールしない理由とは?

 先日、ある医療法人が住宅型有料老人ホームを開設しました。
 
 この医療法人では、グループの法人で複数の高齢者住宅を運営していますが、そこの入居費用は月額20万円程度(介護保険自己負担除く)。
それに対して、医療法人が直接運営する新ホームは、一番安い居室でも入居一時金ゼロプラン場合で約45万円、最も高い居室は80万円というハイグレード物件です。

 これだけの料金ですから、共用部には図書室、アトリエ、リハビリルーム、散歩も楽しめるウッドテラスなどを完備。
また、一部の居室には広い専用テラスが設けられているなど、スペースに限りがある都市型立地のホームにもかかわらず、ゆったりとした住環境を提供しています。

「新型コロナで『外出を自粛しましょう』という機運が強い中で進めてきたプロジェクトということもあり『ホームの中だけで、いかに楽しく、快適に過ごせるか』という点を重視しました」と医療法人の理事長は語ります。
 
 また、医療法人が運営する総合病院がホームのはす向かいにあり、法人勤務の看護師が24時間常駐しているほか、必要に応じて医師、理学療法士、作業療法士が訪問する体制も整えており、医療対応も充実しています。

 しかし、理事長は「ホームのパンフレットを作る際に、制作会社には『医療面の話はあまり前面に出さないで欲しい』と要求しました」と語ります。
実際に全8ページのパンフレットの中には、総合病院の紹介が4分の1ページ程度あるほかは、24時間看護師が常駐していることが文中に書いてある程度です。
見出しやキャッチフレーズなどの目立つ部分には「医療法人が運営」「総合病院が目の前」などという文言は全く使われていません。

 その理由について、理事長は「このクラスの高齢者住宅になると、入居者はかなりの豪邸に住んでいるでしょう。高齢者住宅を探す際にも重視するのは『住まいとしての質の高さ』だと思われます」「医療対応の充実は、確かに高齢者住宅の重要な差別化ポイントのひとつです。

しかし、病院などの医療機関は『住まい』ではありません。
あまり医療を前面に出し過ぎてしまうと『住まいとしての質は今一つ』という印象を相手に与えてしまうリスクがあります」と語ります。

 確かに、医療機関が運営する高齢者住宅の中には、病院や老健と一体的に開発されていたり、移転や縮小で不要になった病院を転用したりしているところもあります。もちろん、転用に際しては内外装の修繕などは行っていますが、回廊式のフロア形状など、住宅としては不自然な構造がそのままになってしまっているケースもあります。

以前見学した都内の有料老人ホームも、移転で空きになった元病院を改修して運営していたものですが、スペースの都合なのでしょうか、入居者は廊下に並べられた長椅子に座ってじっとテレビを見ていました。
その様子はまさに大病院の待合そのものでした.

 このように、高齢者住宅の差別化ポイントが、ターゲット層によっては逆にデメリットになることもあります。消費者やケアマネジャーにアピールする際には、その点を十分に考えないと逆効果になってしまう可能性もあります。

また、今回紹介したホームでは、「住まいの質を前面に」という要望がなかなか伝わらず、パンフレット制作会社からは医療面を前面に出したデザインを推されたそうです。
なまじ、高齢者施設のパンフレットを作り慣れているところですと「医療面をアピールすれば大丈夫」という先入観にとらわれてしまう可能性もあります。

発注先を探したり決めたりする際も、これまでの実績などにあまりこだわらずに、広い視野を持つことが重要なのではないでしょうか。
 

掲載PR一覧

  • 老人ホーム入居相談窓口