介護業界 嚙み砕き知識・ニュース

ハラスメント対策を全介護サービス事業者に要求

2021年度の介護報酬改定では、全ての介護サービス事業者にハラスメント対策を求める旨の省令改正が行われました。

例えば、訪問介護事業者に対しては「適切な指定訪問介護の提供を確保する観点から、職場において行われる性的な言動は又は優越的な関係を背景とした言動であって業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより訪問介護員等の就業環境が害されることを防止するための方針の明確化等の必要な措置を講じなければならない」と運営基準(省令)において規定されました。
また、留意事項通知で、いわゆるカスタマーハラスメント防止のための方針の明確化等の必要な措置を講じることも推奨しています。

ハラスメントが起こりやすい介護の現場

サービス残業の廃止、有給休暇の取得推進など、労働者が働きやすい環境を整える動きが近年急速に進んでいます。
その中でも「ハラスメント防止」は、社会的に最も認識されるようになった点ではないでしょうか。
「従業員の容姿や結婚歴の有無などを職場内で話題にする」など、かつては当たり前だった行為も、今ではすっかりタブーとなりました。
しかし、こうした中でも、改めてハラスメント対策が省令改正で盛り込まれたのは「介護事業者においては、まだまだハラスメント対策が不十分」と国が考えているからだと思われます。

実際に、介護現場はハラスメントが起こりやすい環境といえます。
主な理由は以下の通りです。
①オーナー経営者・同族経営の中小・零細企業が多く、法律や社会通念よりも「経営者側の自己ルール」が優先される傾向がある。
②夜勤や訪問など、管理する立場の人間の目が届きにくい環境で勤務する機会が多い。
③人材不足が深刻化する中で、ハラスメントに関する意識が欠如している人材でも採用されている。
④人材不足で、ハラスメント問題を起こすような人材でも、解雇・出勤停止などの処分を下しにくい。

今年春、大阪市内の有料老人ホームで働いていた男性スタッフが、夜勤中に複数の女性スタッフに睡眠導入剤を飲ませて暴行していたとして逮捕されるという非常にショッキングなニュースがありました。
これはハラスメントの範疇を越えた、れっきとした犯罪ですが、筆者が大阪の介護事業所にこの件についての印象・感想を求めたところ「他人事ではない」といったコメントが少なからずありました。
このコメントからも、これよりも軽微なハラスメントは、残念なことに介護現場では相当数起こっていることが考えられます。

「カスタマーハラスメント」への対応も急務

また、今回は「カスタマーハラスメント防止のための方針の明確化」を求めたことにも注目です。
「お客様は神様です」という意識が強い日本では、商品やサービスの提供を受ける側が、提供者側に過剰な要求などを行うカスタマーハラスメントが起こりやすい土壌があります。
もっとも最近では、これに対して要求を拒否するなど毅然と対応する企業も増えています。
しかし、介護業界では「介護は奉仕の心で」などの自己犠牲を求める精神が強いことに加え、「相手(介護サービス利用者)は認知症などで判断能力がない」ことなどを理由に、ハラスメントを受けた側が泣き寝入りをしてしまっているケースが少なくありません。
スタッフが利用者に手をあげたら虐待として大問題になりますが、スタッフが利用者から暴行を受けてケガをしても、会社からは「仕方ない」「我慢しなさい」と言われて終わりにされてしまいます。
仮にその暴行が元で心理的・肉体的なダメージを負い、就労ができなくなってしまったとしても、何の保証もないことも珍しくありません。
こうした「不公平感」がスタッフの大きな不平不満につながっています。
 
今は、「ここの職場ではハラスメントが横行している」「会社はカスタマーハラスメントから従業員を守ってくれない」といったような情報は、ネットなどで簡単に拡散してしまいます。
採用面でも大きなダメージを受けるでしょう。
ハラスメントを起こさない体制、ハラスメントが発生した場合の被害者のケア体制を整えることは、全ての介護事業所にとって早急に取り組むべき課題といえます。

掲載PR一覧

  • 老人ホーム入居相談窓口