介護業界 嚙み砕き知識・ニュース

過疎地域でのサービス充実に向けた施策も 「住む場所で負担額・受けられるサービスに大きな差」の是正目指す

小多機・看多機などが加算の対象に

2021年度介護報酬改定では、離島や中山間地域等におけるサービスの充実に向けた取り組みが行われました。
これまで離島・中山間地域等におけるサービスについては、サービス提供地域によって、①特別地域加算(所定単位の15%増)、②中山間地域等における小規模事業所加算(所定単位の10%増)、③中山間地域等に居住する者へのサービス提供加算(所定単位の5%増)、の3つの加算が設けられていました。
今回の改定では新たに夜間対応型訪問介護が①~③の、小規模多機能型居宅介護と看護小規模多機能型居宅介護が①と②の、認知症対応型通所介護が③の対象に加わりました。
いずれもほかの訪問系・通所系サービスと報酬のあり方をあわせた形になります。

また、小規模多機能・看護小規模多機能については「過疎地域その他これに類する地域の実情により効率的運営に必要であると市町村が認めた場合」は「一定期間」に限り「登録定員・利用定員を超えてサービス提供ができること」「登録・利用定員を超えても報酬を減算しないこと」が明記されました。
ちなみに「一定期間」については「市町村が登録定員の超過を認めた時から介護保険事業計画期間終了までの最大3年間を基本」と定義しています。

訪問・送迎に多大な手間

離島や中山間地域は居住人口そのものが少ない上に、集落から集落の間が離れていたり車が入っていけない家屋があったりと送迎や訪問の効率が非常に悪く、介護事業者にとっては事業が難しい地域でした。
これらの地域では民間介護事業者の進出が進まず、社会福祉協議会が運営するものしか介護事業所が無いこともありました。
結果として、住民にはサービスの選択肢が無いという、マーケットとして不適切な状況になっているケースも見受けられました。

課題は送迎や訪問の効率の悪さだけではありません。
以前、ある大きな離島内の人口1000人ほどの寒村の介護事情を取材したことがあります。
ただでさえ少ない村内の生産年齢層の多くが公務員や公共インフラ関係、第一次産業に従事しており、ヘルパー確保に非常に苦慮していました。
50床の特養に入居者は25人しかいないような状況でしたがそれでも人手不足で、隣接する自治体から採用しなくてはなりませんでした。
通勤時間は平均で片道1時間。
もちろん自家用車です。
通勤手当代代が非常にかさんでいました(離島ですからガソリンが高いのです)。

また、その島にはある大手フランチャイズに加盟しているデイサービスもありましたが「開業してから暫くは本部から指導などでスタッフがたまに来ていたが、そのうち全く来なくなった」とのことでした。
このようにサービスに必要な情報の入手や、スタッフ教育の機会さえ失われているというのが、離島・中山間地域の介護事業の現実です。
もちろん、都市部に比べて地代や家賃が安い、賃金水準が低いなどの利点もありますが、総じて「労多くして実少なし」と言わざるを得ません。

介護保険料月9800円

また、離島や中山間地域を抱える市町村の多くは人口減、特に生産年齢人口が著しく減少していることから、総じて介護保険財政は厳しいものとなっています。

例えば、厚生労働省が2021年5月14日に公表した「第8期介護保険事業計画期間における介護保険の第1号保険料」によれば全国の自治体の中で最も介護保険料が高かったのは、東京都の離島青ヶ島村で9800円、以下秋田県五城目町の8300円、福島県葛尾村の8200円、岩手県西和賀町の8100円と続いています(もっとも、大阪市が全国で5番目に高く、逆に安い方の上位には離島などの自治体もあり、一概に「地方=介護保険料が高い」という図式ではありません。
供給される介護サービスの種類や要介護認定率の違いなど、様々な要素が影響していると思われます)。

住んでいる場所によって受けられる介護サービスの質や量、負担額に大きな差があるのは好ましい状況ではありません。
「良い介護サービスを受けるために転居する」などという住民が出たら、その市町村はますます衰退してしまいます。
介護は社会インフラの一種でもあります。
地域によって著しい差がでないように、報酬の調整や規制の緩和・撤廃などで、離島・中山間地域にも良質なサービスが提供できる仕組みを整えていく必要があると思われます。

掲載PR一覧

  • 老人ホーム入居相談窓口