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求人広告に「私たちの想い」は必要か? 見る人にアピールすべき点を明確に

 有料老人ホームやデイサービスなどの介護事業所は、利用者やスタッフ、運営をサポートしてくれるボランティアなど、なにかと「人を募集する」機会が多くあります。
「優れた人」を「効率的に」募集するには、自分の事業所のセールスポイントを、ターゲットとする人たちに的確に伝える必要があります。

今は、介護事業所だけでなく介護スタッフ個人としてもYouTubeやtiktokなどのSNSで情報発信を行うケースが増えており、「見てもらいたい人に、いかに注目してもらうか」というノウハウもかなり蓄積されています。

しかし、一般的には、こうしたことが不得手な介護事業所が多いようです。

以前、ある有料老人ホームが、外部の求人サイトに掲載するPR動画を撮影する現場に立ち会ったことがあります。
内容は、スタッフが代わる代わる一言ずつ事業所のアピールポイントを語るというもの。
動画の時間は1分ぐらいで一発撮りです。しかし、ほとんどの介護スタッフはカメラを前に話した経験がありせん。
「噛んだらどうしよう」などと緊張を隠せませんでした。その様子を見て、本社の社員が「大丈夫。とにかくうちの会社の『想い』を伝えればいいのだから」と安心させようとしていました。

 私は、このセリフに少々違和感を覚えました。会社がしっかりとした「想い」や「理念」を持ち、それを共有することは大切です。しかし、求人広告にそれが必要でしょうか?
求職者が仕事探しに際して重視するのは「仕事内容」「給与」「福利厚生」「会社の規模や歴史」「教育・研修制度」などの各種条件でしょう。
介護業界での勤務経験が長い人ほど、こうした現実的な部分を重視します。

ですから、短い動画の中で求職者にアピールすべきなのは「年間休日〇日」「残業無し」「介護福祉士手当〇円」「寮完備」「子連れ出勤OK」などの具体的な内容です。
そうして多くの応募者を集めた上で、職場見学などで実際の雰囲気を感じ取ってもらい、想いや理念について説明をするのが順番としては効果的でしょう。 

しかし、実際にはこのホームのように「立派な『想い』があれば、全く初めての接触でも多くの人が振り向いてくれる」と考えているケースが多いと感じます。

同じようなことは入居者募集の際にもみられます。
ある有料老人ホームは高台の中腹に位置しており、眺望の良さをアピール材料としていました。
確かに入居するホームを探す際には、それも要素の一つとなるでしょう。しかし、このホームでは正面だけでなく「背後の山を除く3方向それぞれに違った眺望を楽しめる」ということを積極的にアピールしていました。
これは果たして効果的でしょうか?

 もし、このホームに高層ビルの展望台の様に360度全てが大きな窓になっているフロアでもあり、入居者が自由にそこに登れるのであれば、こうした点をアピールするのもありでしょう。
しかし、要介護者が対象の高齢者住宅では、入居者の多くは自室のほかには食堂や浴室に行くぐらいの移動しかしません。自分の居室・食堂以外の眺望の良さが、果たしてどれだけのアピール材料になるでしょうか。

これまで積極的にSNSを活用したり、頻繁に求人・入居者募集広告を打ったりしても思ったような反応が得られ場合は「アピールするポイントがずれていないだろうか」という点を改めてチェックしてみてはどうでしょうか。

ちなみに、このコラム内で紹介した「求人サイト内のPR動画」で、求職者から多くの反応があった事業所がアピールをしていたのは「施設長が認知症ケア専門士の資格を持っているので、就職したら認知症ケアについて専門的に学べる機会が多い」という点でした。


介護の三ツ星コンシェルジュ

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