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2024年度介護報酬 訪問介護がまさかの引き下げ その理由は? 業界への影響は?①

2024年1月23日、4月からの介護報酬の具体的な単位数が発表されました。
報酬全体が1.59%のプラスとなることは早々に決定、発表されており、業界内には期待する声が多くありました。
しかし実際には、全体的に引き上げとなる中で、訪問介護の基本報酬が引き下げられました。これを受けてネット上などには「驚いた」「あり得ない」「国は事業者を潰す気か」などといった意見が数多く書き込まれています。

今回は、「なぜ訪問介護の報酬は引き下げられたのか」などという点を2回に分けて検証してみます。

まず、訪問介護の報酬を新旧比較してみます。
〇身体介護(20分未満)      167単位➡163単位
〇生活援助(20分以上45分未満)  183単位➡179単位
〇通院等乗降介助          99単位➡97単位

 身体介護・生活援助それぞれ最も時間が短いものを抽出しましたが、それ以外の時間も含め、新報酬は概ね2%強の引き下げとなっています。
今回の報酬改定で、基本報酬が引き下げになったのは、訪問介護のほかに定期巡回随時対応型訪問介護看護(約4.5%引き下げ)、夜間対応型訪問介護(約3.5%引き下げ)があります。
訪問介護はそれらに比べて引き下げ率自体は低いですが、事業所数、そこで働くスタッフ数は圧倒的に多く、介護業界全体に与える影響は大きいと言えます。

なお、今回基本単位が引き下げられた3つの介護保険サービスについて、厚生労働省は資料の中で「(これらのサービスについては)処遇改善加算について、今回の改定で高い加算率としており、賃金体系等の整備、一定の月額賃金配分等により、まずは14.5%から、経験技能のある職員等の配置による最大24.5%まで、取得できるように設定している」と、わざわざ赤字で大きく注釈を入れており「一概にマイナス改定とは言えない」という旨を強調しています。

しかし、訪問介護事業所の多くは中小・零細企業であり、賃金体系等の整備が十分に行えないケースもあります。
また、人材不足の介護業界の中でも訪問ヘルパーは特にそれが深刻で、有効求人倍率は15倍とも言われています。
このような状況の中で「経験技能のある職員等の配置」が満足に行える事業所は少数なのが現実でしょう。

ここで気になるデータを紹介します。
大手信用調査機関の東京商工リサーチによると2023年の訪問看護事業者の倒産件数は、同年12月15日時点で60件に達し、これまで年間最多だった2019年の58件を上回りました。
倒産事業者の中でも、95%が資本金1000万円未満、83%が従業員数10人未満であり、小規模・零細事業者の倒産が目立ちます。

 倒産が増加した背景として、東京商工リサーチは、ヘルパー不足を挙げています。
特に新型コロナウイルス感染症が5類となった昨年5月以降は、外食やサービス業などの他業種が人材募集を強化しました。
それらの業界との賃金格差もありヘルパー確保が困難になっています。

この結果として利用者数を増やせない、または利用者が減少するというケースが増えています。
こうした状況に、昨今のガソリンや介護用品の価格上昇が加わり、中小・零細事業者を中心に経営環境が悪化したとみられます。

このように、介護事業者の中でも訪問介護事業者の経営状況は非常に深刻です。
今回の基本報酬の引き下げは、さらなる倒産につながる可能性も考えられます。

在宅で生活する要介護高齢者はもちろんですが、サービス付き高齢者向け住宅や住宅型有料老人ホームなど介護サービスが外付けの施設で生活する高齢者にとっても少なからず影響が出てくることが予想されます。

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