介護事業者の収支差率0.4ポイント下落 次期介護報酬改定に与える影響は?②
今回も前回に引き続き、11月10日に厚生労働省が発表した2023年度の介護事業経営実態調査の結果について検証してみましょう。
前回は、各介護保険サービスの収支差率に注目しましたが、今回は「回答率」に焦点を当てます。
前回のコラムでも触れたように、今回の調査は無作為抽出した全国3万3177事業所を対象とし、1万6008事業所が回答しました。したがって有効回答率は48.3%となります。
前回調査の45.2%よりは上昇しましたが、それでも半数以上の事業所が回答していません。
こうしたことから、調査の度に介護事業者からは「果たして介護事業所の経営状況が正しく反映されているのか」という声や「それを介護報酬改定の参考とすることが正しいのか」という疑問の声が挙がります。
「なぜ、回答をしない介護事業者が半数以上もいるのか」という点については、2つの正反対の見方があります。まずは「本当に経営が大変な事業所は、回答をする時間・人手の余裕すらない」というものです。この場合は「回答事業所=経営状況が良い事業所」と言えるでしょう。
一方は「回答事業所=経営が大変な事業所」という意見です。
高い収支差率が出たサービスについては、国が「そんなに利益が出ているのなら」と介護報酬を引き下げる可能性があります。
それを避けるために、経営が好調な事業所は敢えて回答を控える傾向があるとも言われます。
現実はどちらなのでしょうか?そのカギと言えるのがサービスごとの回答率です。
今回の調査の回答率を介護サービスごとに見てみると、回答率が最も高いのは介護老人福祉施設の66.1%です。
以下、地域密着型介護老人福祉施設(62.2%)、看護小規模多機能型居宅介護(55.1%)、地域密着型特定施設入居者生活介護(55.0%)、短期入所生活介護(54.4%)の順となっています。
一方、回答率が最も低いのは、訪問リハビリテーションの36.5%。以下、福祉用具貸与(38.6%)、地域密着型通所介護(39.1%)、通所リハビリテーション(42.5%)、特定施設入居者生活介護(44.6%)です。
これらのサービスの収支差率を見てみると、回答率が高いサービスは、順に−1.0%、−1.1%、+4.5%、+1.9%、+2.6%です。一方、回答率が低いサービスでは、順に、+9.1%、+6.4%、+3.6%、+1.8%、+2.9%となります。
収支差率と回答率に完全に関連性があるとは言い切れませんが、総じて収支差率が低いサービスほど回答率が高いと言えるのではないでしょうか。
このことからも「厳しい経営環境を国に理解してもらい、何とかプラス改定を勝ち取りたい」と回答する事業者の気持ちが伝わってきます。
経営が厳しいサービスほど熱心に回答するのであれば、調査結果は実態よりも悪い数値が出る可能性が高くなります。
しかし、そうとばかりも言えません。
先ほど述べたように、回答する余裕すらない介護事業所の存在も考えられるからです。
いずれにせよ、回答率が半分に満たない調査では、業界全体の経営状況を推し量る材料としては十分とは言えないかもしれません。
1事業所でも多く回答することが、実態をきちんと反映した制度改正・報酬改定につながるのではないでしょうか。
ある介護サービスの事業者団体では「我々が現在置かれている状況を正しく国に伝えるためにも、調査には回答しましょう」と会員に呼びかけています。
しかし、こうした動きもサービスによりバラツキがあるのが現実です。
サービスごとの回答率の差が大きいのは、こうした事情もあると考えられます。