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資金難で食事提供ストップ? 埼玉のサ高住で前代未聞のニュース

一般紙が10月20日、埼玉県内のサービス付き高齢者向け住宅(特定施設入居者生活介護の指定も受けています)が、資金不足から食事など入居者へのサービスが提供できない状況に陥っていると報じました。

 9月16日に従業員から自治体に対して「運営費不足で給与の未払いがある。入居者への食事提供もできてない」と相談があり、自治体が立入調査を行いました。
自治体は入居者の安全確保のため、他施設への転居を促し、移転が長引いた入居者については自治体が食費の負担を行いました。
最終的には、全入居者が転居する見込みとのことです。

 高齢者住宅検索サイトによると、このサ高住の開設は2020年11月で、定員は34人。
運営は一般社団法人ですが、母体は医療法人で、その医療法人が運営するクリニックが併設されています。
胃瘻、透析、ペースメーカー、末期がんなど多くの医療的ケアについて「状況によって受け入れ可能」としており、特に受け入れ能力に難があるとも思えません。


前述の一般紙の記事によれば、自治体が従業員から相談を受けた時点では29人が入居していたそうですから入居率は85%。高くはありませんが、利用者の生命維持に直結する食事の提供をストップせざるを得ないほどの厳しい経営環境に陥るような数字ではないと言えるでしょう。

 記事では「入居者からの家賃や介護報酬は運営する法人に支払われていたが、運営費が施設費に回らなかったと見られる」「自治体が運営法人に問い合わせているが、詳しい事情は聞けていない」とあり、何やら特殊な事情があったことも考えられそうです。

今回のサ高住のように、経営難で入居者の食事提供に支障がでて、自治体が他施設への移転を促すことになるほどのケースは非常に少ないですが、先日、公益社団法人全国老人福祉施設協議会が「特養の6割が赤字」という調査結果を公表したように、近年、高齢者施設の経営環境は総じて厳しい状況にあります。

先日、ある有料老人ホームを事業承継した介護事業者は「知り合いを通じて『運営を引き受けてくれないか』と相談があったのですが、あと2ヵ月で完全に資金ショートする状況でした。
入居者の安全を第一に考え、デュー・ディリジェンスなどは後回しにして、とにかく事業承継することを最優先にして動きました」と語ります。
このように、表面化はしないものの、実際にはかなりギリギリの状況に陥っている施設は少なくないといえるでしょう。

この例のように、経営が厳しい施設は早い段階でM&Aされることが一般的でしょう。
また、大手事業者などでは、自身では施設の運営が困難な状況になった場合に、入居者へのサービスを維持継続してくれる「バックアップオペレーター」と呼ばれる事業者を予め選定していることもあります。

したがって、介護事業者が倒産やそれに近い状況になったとしてもサービスがストップするような事態になることは稀なのですが、それでも今回のような事態が発生するケースはあります。

入居をするにしても、就職するにしても、企業として取り引きをするにしても、施設運営者体力の見極めが重要になります。

特に最近は、水道光熱費や食材・日用品の急激な値上がり、人材募集コストやスタッフの処遇改善など人件費高騰で運営コストが増加し、満室稼働なのに経営が厳しいというホームも少なくありません。

入居率などの単に表面的な部分だけを見て経営状況を判断すると「こんなはずではなかった」ということになりかねませんので注意が必要です。

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