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技能実習に代わる新制度の概要固まる 一定条件を満たせば転職も可能に

外国人技能実習制度の見直しを検討する政府の有識者会議が10月18日に行われ、現在の技能実習制度を廃止して新制度の創設を求めるという最終報告書のたたき台(以下:たたき台)が国から示されました。
年内にも最終報告書が取りまとめられる予定です。

 今回は、その内容と、それが介護業界に与えると思われる影響について見てみましょう。

 たたき台で示された新制度の概要は以下の通りです

1,人材確保と人材育成を目的とする
2, 育成期間は基本的に3年間
3,受入対象分野は、特定技能制度1号・2号分野に限定
4, 一定条件下で本人の意向による転籍を認める
5, 監理団体の許認可要件を厳格化

まず、たたき台では、1にあるように、「人材確保」を目的のひとつとして明記しました。
技能実習は、実質的には人材不足の企業が労働力の確保を目的に活用していました。
しかし、国は最後まで「人材育成」という名目を変えなかったこともあり、制度の建前と利用実態の間に大きな乖離がみられました。

例えば、監理団体は「就労」「人手不足解消」などの文言を、受け入れを検討する企業への提案時などに用いることができませんでした。
今回、人材確保を目的の一つに加えたことで、利用実態に即した形になり、わかりやすく、使いやすい制度になることが期待されます。

また、5も注目すべきポイントです。
過去には実習生のフォローなどをほとんど行わないなどの悪質な監理団体も散見されました。国によれば令和元年度から5年度(令和5年度は9月29日まで)で、許可取り消し処分を受けた監理団体は45、改善命令を受けた監理団体は29にもなります。

たたき台では、「監理団体と受け入れ企業の役職員を兼務することの制限または外部監視の強化」などを新たに盛り込まれる予定で、監理団体の中立性・透明性が高まることが期待できます。
一方で、優良な監理団体については手続きの簡素化などといった優遇措置を設けていくとしています。

もっとも影響が大きいのは4でしょう。
たたき台では、転籍(転職)の条件について「人材育成等の観点から、一定要件(同一企業での就労が1年超/技能検定基礎級合格、日本語能力A1相当以上のレベル(日本語能力試験N5合格など))を設け、同一分野内に限る」としています。
また、転籍前企業の初期費用負担について不平等が生じないための措置を講じます。

技能実習制度では、転籍は認められていませんでした。
受け入れ企業側にしてみれば「一定期間は絶対に辞めない(辞めても補充される)人材」であり、そうした油断が実習生への過酷な待遇(低賃金や劣悪な寮など)の一因になっていました。
そのことが実習生の失踪や逃亡につながるという現実がありました。

実習生の転籍が可能になれば、条件の悪い受け入れ企業からは実習生がどんどん流出してしまうという結果になりかねません。多くの受け入れ企業で待遇面の見直し・改善を図らなければならなくなるでしょう。
多くの介護事業者にとって実習生は欠かすことのできない戦力になっています。
しかし、新制度により実習生の流動性が高まれば、たちまち戦力不足に陥ることも考えられます。
実習生は決して「日本人よりも安く雇用できる人材」ではありません。
その採用・活用に際しては日本人と同様に、いや、異国で慣れない仕事に従事しているという事情を考えれば、日本人以上にケアやフォローが必要になるといえるでしょう。

実習生を上手く受け入れ、活用していくための社内体制の構築が多くの介護事業者にとって経営上の大きな課題になると言えそうです。

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