介護業界 嚙み砕き知識・ニュース

利用者の公平性の確保は重要 ただし「高いレベル」での公平性を

 新型コロナが広がる前の話です。ある高齢者施設で、テレビなどにも出ているちょっとした有名人(以下:Aさんとします)をレクリエーションの講師に呼んで欲しいという要望が一部の入居者から出ました。

 しかし、施設側にはAさんを呼ぶだけの予算がありません。参考までにギャラを問い合わせてみたところ、入居者1人当たり5000円程度の負担で呼べる額でした。そこで、施設は、入居者一人ひとりに「費用を負担してもらえないか」と打診しました。多くの入居者が「Aさんに会えるなら5000円ぐらい喜んで出します」と前向きな中で、ごく一部の入居者は「経済的に厳しく、5000円は出せません」という反応でした。

 さて、こうしたケースの場合、皆さんはどういう対応をしますか?
また、この施設では、最終的にどのような対応をしたと思いますか?

 施設の結論は「1人でも負担できない入居者がいる以上、Aさんは呼べない」でした。

 施設側は、「Aさんのレクを体験するのに『費用負担をしている入居者』と『費用負担をしていない入居者』が混在するのは、公平性という点で問題がある」と判断したそうです。

 高齢者施設では、入居者の資産額はある程度一定の範囲内に収まることが一般的です。
しかし、あるモノやサービスに対して「実際にどの程度の負担ができるか」は、金銭感覚の違いもあり、個人差が生じます。今回の例でいえば「費用は負担できない」と言った入居者の中には、本当にお金が無いのではなく、「金を払ってまでAさんを見たいとは思わない」が本音の人もいたかもしれません。

 もし、そうならば、その人に対しては「費用は出さない・レクには不参加」という選択肢を与えることもできたのではないでしょうか。
 

 しかし、この施設では、入居者や家族からクレームが出ることを恐れたのでしょうか。「公平性の確保」を重視した結果だったのでしょうか。もちろん、入居者の公平性を確保することは大事です、しかし、得てして介護事業所の場合には「お金がない人」「体が動かない人」のレベルに合わせて公平性を保とうとしがちです。それは結果として金銭負担能力のある人や、体が動く人の不平不満につながる可能性もあります。

 今回のケースはレクでしたが、それ以外の部分についても「どうすれば、金銭面や体力面などに課題を抱える入居者でもレベルの高いサービスを楽しめるか」といった観点に立つことが介護事業者には必要なのではないでしょうか。

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この記事を書いたコラムニスト

西岡 一紀 (ニシオカ カズノリ)

なにわ最速ライター

介護・不動産・旅行

介護系業界紙を中心に21年間新聞記者をつとめ、現在はフリーランスです。
立ち位置としてじ手は最もキャリアが長い介護系が中心で、企業のホームページ等に掲載する各種コラム、社長や社員インタビューのほか、企業のリリース作成代行、社内報の作成支援などを行っています。

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