建築コスト高騰で進む施設の大規模化 運営面などで注意すべき点は?
関西で複数の高齢者住宅を運営するある介護事業者は、これまで「1棟50室」を目安に開発を進めてきました。
しかし今後は「70~100室程度」に標準規模を引き上げます。
また、ある介護事業経営コンサルタントは、コンサルティング先の事業者に対して「仮に定員20名のデイサービスを3つ近隣で運営しているなら、集約して定員60名のデイサービスにした方がいい」と指導しているそうです。
このように、事業所の大規模化を図る傾向が近年の介護業界内にはみられます。
高齢者住宅を例にとれば、特別養護老人ホームや介護老人保健施設は定員100人クラスの物件が少なくありません。
民間の高齢者住宅も以前はそれと同程度の規模の物件も少なくありませんでした。
しかし、同じ定員数でも多床室もあった従来型の特養や老健と比べると、完全個室が大半の民間の高齢者住宅は建物の規模が大きくなります。
開発コストがかかることなどから次第に小規模化が進みました。
また、郊外型立地が多かった特養や老健に比べて民間の高齢者住宅は住宅街の中に設けられることも多く、大規模な土地の確保が難しいという事情もありました。
これらの理由から、首都圏や関西圏などの大都市圏では50床を超えると「大きなホーム」という印象を与えるようになりました。
そうした小型化の流れから、大型化志向に転じたのにはどのような理由があるのでしょうか。
冒頭で紹介した介護事業者は「建設コスト」を挙げています。
建材価格の値上がりに加え、建設作業員の人件費も上がっています。
こうした中でも算盤があうように建築コストを抑えるための工夫が大規模化です。
例えば30室の高齢者住宅を2棟作れば、エレベーターや機械浴、厨房機器などは2つ必要ですが、60室1棟であれば1つで済みます。
これは、スタッフについても同様です。
高齢者住宅が2つあれば施設長は2人必要です。
残念ながら社内に施設長を任せられる人材が少なければ、他者から引き抜くなどの手法をとらざるを得ません。
当然人材紹介会社などに支払う費用も発生します。
そのほか事業形態にもよりますが、看護師や管理者、サービス提供責任者、ケアマネジャーなど事業所の数に応じて配置しなくてはならない有資格者や職務者がいます。
介護業界の人手不足が深刻な中で、それを確保・育成していくのは大きな負担となっています。
また、「入居者のQOLという点でも大規模化が好ましい」という見方もあります。
例えばレクリエーションです。
利用者や入居者の身体状況や認知機能の状況、趣味や嗜好には個人差があります。
本来であれば、そうした個人差に対応したレクリエーションの提供が望ましいのですが、小規模な事業所ではスペースやスタッフなどの都合から1つのレクリエーションしか行えないケースが大半です。
それに対し大規模な事業所であればフロアごとなどで異なるレクリエーションを実施できます。
入居者の満足度が高いだけでなくADL維持改善につながることも期待できるでしょう。
こうした観点から、事業所の大規模化を目指す姿勢が強くなっているのですが、メリットばかりではありません。
スタッフの数が多くなりますから、組織マネジメント力が求められます。
施設長の力量アップはもちろんですが、フロアリーダーなど施設長と現場の橋渡し役となる役職の配置・育成が求められます。
また、どうしても日頃スタッフ1人ひとりに目が行き届かなくなります。
その分、個別面談の機会を多く設けるなどの対応が不可欠になると言えます。
加えて、日頃の業務においてもICT機器の活用などで直接顔を合わせなくてもコミュニケーションを図ったり、勤務の様子が確認できたりする体制を構築する必要があるでしょう。
介護の三ツ星コンシェルジュ


