介護業界 嚙み砕き知識・ニュース

介護施設でのBCP対策の取り組みについて

1.義務化の背景

近年、日本各地で大規模な自然災害が頻発し、加えて新型コロナウイルスのようなパンデミックも発生しています。

こうした状況下で、介護施設は利用者やスタッフの安全確保とサービス継続が大きな課題となりました。

特に高齢者や要支援者を多く抱える介護施設では、災害や感染症発生時のリスクが非常に高く、施設運営の継続性が社会的にも強く求められるようになりました。

2011年の東日本大震災や2020年の新型コロナ流行時には、多くの介護施設でサービスの中断や運営困難が発生し、利用者の生命や健康に重大な影響を及ぼしました。

こうした教訓を受け、国は2021年の介護報酬改定において、すべての介護施設に対してBCP(事業継続計画)の策定を義務付けました。

2.実施までの期限

BCP策定の義務化は2021年の介護報酬改定で決定され、経過措置期間が設けられていましたが、2024年4月1日までにすべての介護施設で策定完了が求められています。

この期限以降は未策定の場合、報酬減算などのペナルティが科されます。

3.事業別の実施率

2024年4月の義務化直前の段階で、介護施設におけるBCP策定率は事業種別で差が見られます。

特に規模の小さい事業所や訪問系サービスでは策定が遅れている傾向がありますが、特別養護老人ホームや有料老人ホームなどの入所系施設では比較的高い策定率が報告されています。

なお、具体的な数値は公的な最新統計を参照する必要がありますが、全体としては義務化を受けて急速に策定が進んでいる状況です。

4.実施しなかった場合の罰則

BCP作成しなかった場合の罰則については、現時点で、介護施設がBCPを策定しなかったこと自体に対する直接的な法的罰則や刑事罰は設けられていません。

つまり、BCP未策定で刑罰を受けることはありません。

ただし、2024年度の介護報酬改定により、BCPを策定していない介護施設に対しては「業務継続計画未実施減算」が導入されました。

具体的には以下の通りです。

・施設・居住系サービス:介護報酬の3%減算
・その他の介護サービス(訪問系など):1%減算

介護報酬減算の適用については1年間の経過措置期間が設けられています。

この経過措置期間は2025年3月31日までであり、2025年4月1日からは全ての介護サービス(訪問系、居宅介護支援も含む)に対して減算が本格的に適用されます。

ただし、経過措置期間中に「感染症の予防及びまん延防止のための指針」や「非常災害対策計画」を策定している場合は、BCP全体の策定が完了していなくても減算の対象外となる特例措置もあります。

居宅療養管理指導については、より長い経過措置(2027年3月31日まで)が設けられているケースもあります。

5. 行政指導の対象となりうる

BCP未策定は運営基準違反とみなされ、行政指導の対象となります。
指導に従わない場合は、指定取消などの行政処分に発展する可能性があります。

指定取消処分を受けると、最低5年間は介護事業の指定を受けられず、事業継続が困難になります。
法人の役員や親会社も処分対象となるため、経営全体に重大な影響を及ぼします。

6. 安全配慮義務違反による民事責任のリスク

介護事業者には利用者の安全に配慮する法的義務(安全配慮義務)があり、BCP策定を怠り災害や感染症で利用者や職員に被害が生じた場合、損害賠償請求を受ける可能性があります。

過去の転倒事故や感染症対策の不備などが安全配慮義務違反と認定された例もあり、BCP未策定はこうしたリスクを高めます。

7. 信頼低下・経営リスク

BCP未策定が利用者や家族、取引先に知られると、事業所の信頼性が低下し利用者減少や経営悪化を招く恐れがあります。
災害発生時に適切な対応ができない施設として社会的信用を失うことも考えられます。

8.実践のアドバイス

(1). まずは現状把握とリスク分析から
自施設の災害リスクや感染症リスクを洗い出し、優先的に対策すべき業務や設備を明確にしましょう。

(2). 具体的な対応策を計画に落とし込む
重要業務の継続手順、代替手段、職員の役割分担、連絡体制、備蓄品や設備の確保などを具体的に記載します。
自然災害と感染症、それぞれに対応した計画を策定することが重要です。

(3). 職員への周知と定期的な訓練
策定したBCPは、全職員に周知し、定期的な研修や訓練を実施して有事の際に確実に機能するようにします。

(4). 専門家や外部サービスの活用
BCP策定や運用に不安がある場合は、行政やコンサルタント、保険会社などの外部支援サービスを活用しましょう。
例えば「BCPかんたんナビ」などのツールも有効です。

(5). 補助金・助成金の活用
自治体や国の助成制度を積極的に調べ、活用することで、初期コストや運用負担を軽減できます。

(6). PDCAサイクルで継続的に見直しを
BCPは一度作って終わりではなく、定期的な見直し・更新が必要です。訓練や実際の災害対応を通じて、計画の実効性を高めていきましょう。

BCP策定は、単なる義務ではなく、利用者と職員の命と生活を守るための最重要課題です。

経営者自らがリーダーシップを発揮し、全職員とともに「災害や感染症に強い施設づくり」を進めていくことが、今後の介護事業経営の安定と信頼につながります。


介護の三ツ星コンシェルジュ

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