有料老人ホーム新規開発の「本当に大切な」注意点と実践事例
有料老人ホームの新規開発は、単なる建物づくりではありません。
法令遵守は当然として、入居者の快適性・安全性、スタッフの業務効率、そして地域や家族との信頼構築まで、すべてを総合的に設計・運営することが求められます。
私自身、これまで500施設以上の有料老人ホームの開発・立ち上げ・開設後の評価・検証に携わってきた中で、現場でしか得られない「成功と失敗のリアル」を数多く経験してきました。
本稿では、経営者の皆様に向けて、各要素ごとに具体的な注意点と、実際の事例を交えて解説します。
1. 居室の配置・広さ・設備選定
面積基準と設計の工夫
有料老人ホームの居室は法令で13㎡以上が必要ですが、実際には18~21.6㎡程度が主流です。重要なのは「広さ」よりも「使いやすさ」。例えば、車いすの転回や介助スペースを十分に確保し、動線を妨げない家具配置が不可欠です。
床材・内装の選択
転倒時の怪我を防ぐため、クッション性や滑りにくさを持つ床材を選定。木材系の温かみのある素材を積極的に採用し、無機質な空間を避けることが、入居者の心理的な安心感につながります。
失敗事例:居室・動線設計
・居室が広すぎて動線が長くなり、足腰の弱い入居者が移動に疲れやすくなった。結果として転倒リスクが増加し、居室内での事故が多発。
・収納や手すりの位置が高齢者の身体能力に合っておらず、使いづらい・転倒の原因になった。
・居室とトイレの距離が遠く、夜間の移動に苦労して転倒事故が発生。特に頻尿傾向の入居者にとっては大きなストレスとなった。
失敗事例:プライバシー・快適性への配慮不足
・多床室をパーテーションで区切っただけでプライバシーが確保されず、声や動きが筒抜けとなり、入居者の精神的ストレスが増加。
・居室が無機質なデザイン・閉鎖的な空間で、自然光や緑が感じられず、入居者のQOL(生活の質)が低下した。
成功事例:居室・動線設計
・居室の広さや動線を現場でシミュレーションし、車いすや歩行器利用者でもスムーズに移動できるように設計。転倒事故が減少し、入居者の満足度が向上。
・居室内にトイレや洗面台を設置し、夜間の移動リスクを低減。頻尿や体調不良時にも安心して過ごせる環境を実現。
・クッション性の高い床材や木材系の温かみのある素材を採用し、転倒時の怪我リスクを軽減。採光や窓配置にも配慮し、自然光や外の緑を感じられる空間とした。
2. 共用施設の配置・選定
配置の基本とバリアフリー設計
食堂、談話室、浴室、脱衣室、洗面設備、機能訓練室、洗濯室、汚物処理室、医務室などは必須。
居室から共用施設までの動線はできるだけ短くし、途中に手すりや休憩スペースを設けて高齢者の負担を軽減します。
廊下幅や段差解消など、バリアフリー設計は絶対条件です。
失敗事例:共用施設配置・設備
・共用浴室や食堂が居室から遠く、移動が大変で利用率が低下。結果として入居者の交流やリハビリ機会が減少。
・共用トイレや浴室の数などの配置が不適切で、利用時に混雑・待ち時間が発生し、転倒や事故につながった。
成功事例:共用施設配置・設備
・食堂や浴室を居室の近くに配置し、移動負担を軽減。手すりや休憩スペースを動線上に設けて安全性を高めた。
・共用浴室には仕切りやカーテンを設置し、プライバシーを確保。利用率が向上し、入居者の満足度が高まった。
・地域交流スペースや足湯コーナーなど、入居者同士や地域住民との交流の場を設けることで、施設の付加価値と地域とのつながりを強化した。
3. 居室・共用設備の選択ポイント
居室設備
介護ベッド、収納、洗面台、トイレ(可能なら居室内)、緊急通報装置(ナースコール)などを設置。設備は、入居者の身体状況や将来の変化に合わせて調整可能なものを選ぶことが重要です。
共用設備
食堂や浴室は複数人が同時利用できる広さを確保し、プライバシー確保のための仕切りやカーテンも設ける。洗濯室や機能訓練室は、利用者のプライバシーや安全を配慮した設計が望ましい。
4. ナースコールの選定と設置
有料老人ホームではトイレへのナースコール設置が義務付けられています。
居室は義務ではないものの、緊急時対応の観点から設置が強く推奨されます。
ナースコール未設置や運用不備は、高齢者虐待防止法違反や家族からのクレームにつながるため注意が必要です。
種類と機能
・有線型は工事が必要ですが安定性が高く、無線型(LTE/Wi-Fi)は工事不要で導入が容易。
・最新型は、見守りカメラや介護記録ソフト連動、バイタル連携など多機能化しています。ボタンの大きさや押しやすさ、手の届く位置への設置など、入居者の身体状況を考慮した使いやすさが重要です。
失敗事例:ナースコール
・ナースコールが小さくて押しづらい、または手の届かない場所に設置されていたため、緊急時に使えなかった。
・システムが複雑すぎてスタッフが使いこなせず、対応遅延や誤操作が発生した。
成功事例:ナースコール
・シンプルで大きなボタンのナースコールを居室・トイレに設置。見守りカメラや介護記録ソフトと連動し、スタッフの業務効率も向上した。
・入居者・スタッフ双方が使いやすいシステムを採用し、緊急時の対応スピードが改善された。
5. 特浴(機械浴)の選択と運用
選定と運用のポイント
身体機能が低下した入居者でも安全・快適に入浴できるよう、操作が簡単で介護者の負担も軽減できる機種を選定。
プライバシー確保や温度管理、転倒防止なども重要です。
失敗事例:特浴
・操作が複雑でスタッフの負担が増え、利用者も入浴を嫌がるようになった。
・プライバシー対策が不十分で利用率が低下。
成功事例:特浴
・操作が簡単でプライバシー確保がしっかりできる特浴を選び、スタッフ・利用者双方の満足度が向上。
まとめ:成功のためのポイント
居室・共用施設ともに「動線」「バリアフリー」「使いやすさ」「プライバシー」を徹底的に検証し、現場の声を反映した設計・設備選定が不可欠です。
ナースコールや特浴などの設備は、入居者・スタッフ双方の安全・効率・満足度を高める機能性と運用のしやすさを重視してください。
失敗事例の多くは「現場・利用者目線の不足」から生じているため、計画段階から現場スタッフや高齢者の実体験を積極的に取り入れることが、成功事例につながります。
介護の三ツ星コンシェルジュ