介護業界 嚙み砕き知識・ニュース

「利用者に寄り添う」「楽しい雰囲気」は事業所のPRとして適切か

 先日、ラーメンを食べていたときのことです。

 ある客が店主に「このラーメン美味いねえ」と声を掛けていました。店主は「一所懸命に作っていますから」と返していました。

 私は黙ってその会話を聞いて(ちなみに、個人的にはそのラーメンはそこまで美味しいとは思いませんでした)、「『一所懸命に作っている』ことは、果たしてラーメンが美味しい理由になるのだろうか」と疑問を感じました。

 客はおそらく一見です。そして店主も調理などで多忙ですから簡単な会話で済ませたのでしょう。
客もそのラーメンの秘密を細かく知りたいというわけではないでしょうから、やり取りとしてはこれで十分かと思います。

 しかし、これが「ラーメンの美味い店」という書籍の取材だったらどうでしょうか。

「店主が一所懸命だから美味しい」という記事を書いたら、記者は編集長から大目玉を食らいます。
「店主は有名な○○軒で10年間修行」「小麦は農家から直接買い付け」など、客観性・具体性のある理由が求められます。

 つまり「なぜ、お宅のラーメンは美味しいのか」という問いに対して、店主は「相手がどのような立場で聞いているのか」を判断し、それに応じた回答をする必要があります。

 これは介護事業所でも同じことです。

 私も取材で「ほかの事業所に比べて、どのような強みや差別化ポイントがあるか」と聞くことがあります。

 私の立場は介護事業者向け経営情報紙の記者、高齢者住宅紹介サイトのライター、人材サービス会社サイトのインタビュアーなどそのときにより様々です。

 それに対して、介護事業所からは「ご利用者様に寄り添っています」「おもてなしの心です」「とにかく楽しいです」などの曖昧な回答が返ってくることが少なくありません。

 しかし、経営情報紙や人材サービス会社に対しては、これでは不十分です(まあ、私の質問方法に問題があるとも言えるのですが)。

 そこで「具体的にはどういうことですか?」「他社ではこんなことをしていますが、御社ではどうですか?」などと突っ込んで、「入居者の誕生日は月ごとにまとめてではなく、一人ひとりお祝いをしている」「元吉本興業所属のレクリエーション専属スタッフがいる」などのコメントを引き出すのですが、その後で「そうか。こういったことが強みになるのか…」と取材相手が言うこともあります。

 利用者の獲得も人材採用も、要は事業所と相手との「お見合い」です。

 お見合いパーティーや結婚相談所の自己PR欄に「優しい」「誠実」「家庭的」など抽象的で誰でも思いつくことを書いても相手には刺さりません。

 仕事内容、年収などの具体的な内容ほどアピール力があります。また、相手によってアピールする内容を変える必要もあります。

 しかし、介護事業所の中には、こうした自己分析ができず、また相手に対して効果的なPRポイントを打ち出せていないところがあります。

 先日、ある訪問看護事業者を取材しました。
その会社は大都市で複数の事業所を運営していたのですが、ある過疎地に事業所を開設することになりました。

 当初は会社の規模や訪問看護事業の実績、信頼性を前面に出したパンフレットを作成していたのですが、その地の住民やケアマネジャーは「都会の会社が何をしにきた」と余所者を警戒するような態度だったそうです。

 そこで、現地採用した看護師の個人プロフィールなどを前面に出したパンフレットに切り替えたところ、コミュニティの狭い過疎地だけあって「○○さんのところの孫が来てくれるのかい」などと一気に警戒感が薄れ、今では順調に利用者が増えているそうです。

 営業や採用が上手くいっていない場合、このようにアピールポイントを変えてみることも重要といえます。


介護の三ツ星コンシェルジュ

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