2024年度介護報酬 訪問介護がまさかの引き下げ その理由は? 業界への影響は?②
前回のコラムでは、2024年4月の介護報酬改定で訪問介護、定期巡回・随時対応訪問介護看護、夜間対応型訪問介護の3サービスの基本報酬が下がることをお伝えしました。
訪問介護の引き下げ率は2%強と、ほかの2サービスに比べれば低いですが、事業所数・利用者数ともに多いこともあり、業界全体に与える影響は大きいものと思われます。
そもそも、なぜ今回、訪問介護の報酬が引き下げられたのでしょうか?その原因の一つと考えられるのが「収支差率」です。
厚生労働省は、介護報酬改定に関する基礎資料の収集を目的に、全ての介護保険サービスを対象に収入・支出、職員配置・給与などの経営状況を定期的に調査しています。
最新の調査は2023年5月に3万3177事業所を対象に実施されました。
それを踏まえて2023年11月10日に発表された全サービス平均の収支差率は、前年度比マイナス0.4ポイントの+2.4%となりました。
しかし、サービスごとに収支差率を見てみると、奇妙な点に気づきます。主なサービスを抜粋してみましょう。
〇特養 -1.0%(−2.2ポイント)
〇老健 -1.1%(−2.6ポイント)
〇訪問介護 +7.8%(+2.0ポイント)
〇訪問看護 +5.9%(−1.3ポイント)
〇通所介護 +1.5%(+0.8ポイント)
〇特定施設 +2.9%(−1.0ポイント)
〇小規模多機能 +3.5%(−1.1ポイント)
〇グループホーム +3.5%(−1.3ポイント)
※カッコ内は2021年度との比較
訪問介護が、収支差率、前年度比ともに最も高い数値となっています。
特に前年度比が+2.0ポイントというのは、前回のコラムでも紹介した、訪問介護事業者の倒産件数が2023年は過去最多となったという東京商工リサーチの調査結果からしても疑問符を付けたくなるような数値です。
いったいどこからこんな数値が出てきたのでしょうか?
以前にもこの「介護の三ツ星コンシェルジュ」のコラムで触れましたが、収支差率については介護事業経営者などから「経営実態を正しく反映していないのではないか」という指摘もあります。
厚労省から送られてきた調査書類に回答するには相応の手間を要します。
極端な人手不足だったり、資金繰りに奔走したりしているような事業者では、時間的にも気持ち的にも回答する余裕がないでしょう。
事実、今回の調査の回答数は1万6808と調査対象となった事業所の約半数に留まっています。
その結果が「回答する事業者=経営に余裕があると頃が多い=収支差率が実際の平均値よりも高くなる」という方程式になると思われます。
特に訪問介護事業者は回答する余力がないと思われる中小・零細企業の割合が高くなっています。
それに加えて強力な事業者団体がありません。
そこが記入方法のアドバイスをしたりして回答を促す、といったことがなかったことも、実態よりも高い収支差率が出てしまった理由として考えられます。
いずれにせよ、基本報酬の引き下げは決定してしまいました。
今後3年間、訪問介護事業者は厳しい環境下での経営を余儀なくされます。
可能な限りの加算取得、運営コストの見直し、保険外サービスの拡充など、さまざまな手を打って行く必要があるでしょう。
運営コストの見直しに際しては、一般的にある程度の事業規模があった方が有利です。
結果としてこれまで以上に業界のM&Aが進むことも考えられます。
介護の三ツ星コンシェルジュ