介護業界 嚙み砕き知識・ニュース

75歳運転のデイ送迎車が人身事故 雇用者側の判断は正しかったのか②

 前回のコラムでは、9月13日にデイサービスの送迎車が利用者など3名を死傷させるという事故が発生したこと、その運転手が75歳の年齢を67歳と偽って就業していたことに触れました。

このように、採用に関して年齢制限を設けると、それから外れた人がサバを読んで応募する可能性が出てきます。
募集時に明確な年齢制限がなくとも「この仕事は、〇歳以上は就業が難しい」という世間に暗黙の線引きがある場合でも同様と言えます。

人材を募集する際には、そのことを念頭に置いておく必要があります。

 では、事業者側には、こうしたサバ読みを防ぐ方法はないのでしょうか。
 
 今回の件は、送迎ドライバーですから、当然ながら有効な運転免許証を保有していることが就業の大前提です。
運転免許証には生年月日が記載されていますので、これを確認すればサバ読みは防げます。
しかし、報道によると、今回のデイでは運転免許証の原本ではなくコピーで確認をしていたそうです。
コピーでは生年月日の偽造は防げません。「チェックは必ず原本で」を徹底しましょう。

また、日頃から「雑談ができる環境」を整えておくこともポイントです。
今は、プライバシー保護や各種ハラスメント防止の観点から、同じ職場で働く仲間であっても、年齢、住所、家族構成、趣味などのプライベートに関することは「聞かない、話さない」という傾向が強くなっています。
しかし、そうした何気ない話題から、その人が社に対して重大な嘘をついていたり、隠し事をしていたりするのがわかることもあります。

 1~2歳ならともかく、今回のように8歳もサバを読むというのはかなり大変なことです。
例えば、自称している年齢とほぼ同じ年齢の従業員が同じ職場にいた場合、「子どものころに流行ったもの」などといった「同世代あるある話」になることもあります。

その際に話を合わせるのが難しくなり、うっかりぼろが出る可能性もあります。
つまり何気ない日常会話が年齢のサバ読みを見抜くことにつながるのです。

 では、実際に年齢のサバ読みがばれたとしましょう。
もし、雇用者側が普段から「従業員の年齢はまったく気にしていない」のであり、当人の職務遂行能力に全く問題が無いのであれば、注意などの軽い処分で済ませるかもしれません。



 しかし、今回の場合は、
①送迎ドライバーという人の命を預かる仕事である
②実際の年齢が75歳と高齢である
③実際に大きな死亡事故を起こしている
という点で問題は深刻といえます。

世間一般に見ても75歳が「プロのドライバーとして就業する」というのは違和感が大きいでしょう。
そして利用者やその家族は67歳だと思って「安心して」送迎車を利用していたのかもしれません。

75歳と知っていたら、ほかのデイサービスを利用する、自らが送迎するなど他の選択をしていた可能性もあります。
それを考えても今回のサバ読みは悪質であり、本人はもちろん、それを見抜けなかった事業者側が避難されるのも致し方ない面があります(※もちろん、75歳の運転が一概に危険というわけではありません。あくまでも一般論です)。

 介護業界は慢性的な人手不足で、高齢者を雇用せざるを得ない現状があります。
しかし、高齢者は体力を含めて様々な能力が年々低下していきますし、そのスピードは年齢を重ねるごとに早くなります。

今は問題なく働けていても、1年後には就業が難しくなるかもしれません。
年齢を理由に一律に門戸を閉ざすのは考え物ですが、年齢に応じた内容の仕事、就労形態などをよく吟味し、半年に1回などのペースで定期的に認知機能の確認を行い、利用者の安全確保などの面で影響が出ないようにしていくことが重要です。

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