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75歳運転のデイ送迎車が人身事故 雇用者側の判断は正しかったのか①

 9月13日、さいたま市のデイサービスセンターの敷地内で、送迎車が利用者など3人を撥ね、利用者2人が死亡、スタッフ1人がケガをするという悲惨な事故が起こりました。

業務上過失致死の疑いで逮捕された運転手は75歳でした。今は判断力や瞬発力、認知機能が衰えた高齢者が運転する車による事故が全国で多発し、大きな社会問題になっています。

そうした背景もあり、75歳という運転免許の自主返納も考えなくてはならない年齢の人が送迎ドライバーをしていたことに対して、雇用していたデイサービス側を非難する声がネット上などで数多く見られました。

 慢性的な人手不足が続く中で、介護事業者にとっては送迎ドライバーに限らず、高齢者を雇用せざるを得ない状況となっています。
また、国も生きがいづくり、介護予防などの観点から高齢者の就業を推奨しています。

しかし、高齢者を雇用するに際しては、今回の事故のようなリスクも考えなくてはなりません。
今回から2回にわたり、「高齢者を雇用する上での注意点」について、検証してみます。

 まず、大前提として、現在は人材募集に際して年齢制限を設けることは禁止されています
(注・実際には一定条件下で年齢を絞って人材募集を行えるケースもあります)。

募集する側は「肉体労働だから体力のある40代までに限定して募集をかけよう」などと考えがちですが、体力には個人差があり、50代以上でも問題なく力仕事を行なえる人がいます。
募集に際してはそうした人たちが年齢というだけで門戸を閉ざされることが無いようにしなくてはなりません。この点について厚生労働省は「年齢ではなく、応募者個人の能力で採用の可否を判断して下さい」とコメントしています。

 しかし、雇用する側がこのルールを厳守するのは、実際にはなかなか困難です。
「応募者は1人残らず面接する」というのならともかく、そうでない場合は、履歴書や応募フォーム上の情報を元に「書類審査」を行わなくてはなりません。
本人に会ったこともなく、手持ちの情報が少ない中では、判断材料は、学歴、職歴、保有資格、年齢になどならざるを得ないでしょう。

 そして、ドライバーの場合は、運転技能が重要です。
しかし「応募者個人の能力で判断して下さい」と言われても、面接の際にいちいち実際に車を運転してもらうというのは介護事業所では非現実的でしょう。

結局のところ、運転歴や保有する免許の種類(ゴールド等)といった表面的なデータを判断材料にせざるを得ません。こうしたことからも、募集時には厚生労働省が言うように「年齢不問」としていても、実際には、年齢などを元に応募者を「足切り」していることは容易に想像できます。

 今回ニュースになったデイサービスが、送迎ドライバーの募集・面接において、年齢を判断材料にしていたのかどうかは不明です。
しかし、事故を起こした運転手は職場には67歳と年齢を偽って就業していました。
また、警察の取り調べに対して「正直に年齢を告げたら採用されないと思った」と供述をしているそうです。
このことからも、実際には年齢で弾かれることが当たり前と想像できます。

そして「75歳」の実年齢を「65歳」に偽っていたということを考えても、その間、おそらく70歳前後が「高齢者歓迎」を謳うような事業所でも採用・不採用を分けるボーダーラインになっているのではないかと推察されます。

 このように、採用に際して年齢制限を設けると、この運転手のように「サバを読む」という人が出て来る可能性があります。これは事業者側にとっては経営上のリスクとなります。

次回はこの点について詳しく検証していきましょう。
 

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