高齢者に多い悩み

自分で買い物をする機会がない高齢者に 「計算ドリル」は果たして必要なのか?

 仕事柄、さまざまな介護事業経営者にインタビューをしますが、ときに、こちらをハッとさせるような鋭いセリフに遭遇することがあります。

最近では「お金に触ることが無い要介護に『脳トレーニング』と称して計算ドリルをさせている矛盾」という言葉が強く印象に残りました。

 多くの高齢者施設で、紛失や盗難のリスク、スタッフの負担軽減などを考え、利用者が現金を持つことを認めていません。
最近は、出張デパートなどのような利用者が買物を楽しめるイベントを開催する施設も増えていますが、この場合も、現金ではなく施設で用意した疑似通貨を用いるケースが少なくありません。

 施設の場合は、入居者は基本的に24時間をそこで過ごしますから「お金を払って買い物をする」という機会は、家族と一緒に外出でもしない限り無いでしょう。
通所サービス利用者も、自宅のすぐ近くに生活必需品が売っている店舗でもない限り、自分で買い物をするという機会は極端に少なくなるのではないでしょうか。

つまり、要介護状態になった時点で、人は「現金」を扱う機会がほとんどなくなるのです。

 一方、私たちの日常生活の中で、四則計算を最も活用するのが買い物のときではないでしょうか。

「予算の中で買い物を収める」「消費期限内に食べきれるように量を計算して買う」「収納スペースに収まるサイズの商品を選択して買う」「500円玉でお釣りをもらえる額をレジに支払う」など、程度の差はあれ、頭の中で計算をしながら買い物をします。
近年はキャッシュレス化が進んでいますが、予算内に買い物を収めるなどといった際に計算が必要なことは現金の場合と変わりません。

 前述したように、要介護の高齢者はこうした行為とは縁遠くなります。

しかし、現実にはレクリエーションなどでせっせと計算ドリルをしています(そもそも、「計算ドリルがレクリエーションなのか」ということ自体が議論すべきテーマなのかもしれませんが)。

計算ドリル自体は決して「楽しい」ものではありません。何か目標がなければ毎日続けるモチベーションは維持できないでしょう。果たして高齢者にとって、そのモチベーションは「計算ができるようになりたい」ということでしょうか?そうではなく、その先にある「自分が大好きなお菓子を買いに行きたい」のはずです。

 つまり、利用者に計算ドリルを課すのであれば、その先に「自分で買い物に行ける」などの楽しみ・目標がセットで存在しなければ意味がないのです。
 

 冒頭のセリフを口にした介護事業者は駅前商店街の中でデイサービスを運営しており、一部の利用者のケアプランに「買い物の練習」を組み込んでいます。

ヘルパーが同行しますが、商品を選び、財布の中から必要なお金を出して、お釣りをもらうという一連の行為を自分自身で行います。高齢者ですし、中には認知症の人もいますから、ときには「お金が足りない」などといったケースもあるそうですが、そこはご愛敬です。

ツケにしてもらい、後でデイサービス側が店に支払いに行くそうです。このような、お金を実際に使う機会があるからこそ、計算ドリルでの脳トレをする意味があるのです。

 これはリハビリで―ションでも同様です。「孫の結婚式に参列したい」などの明確な目標があるから辛いリハビリも続けられます。
しかし、実際には、新型コロナやスタッフ不足などを理由に入居者の外出が制限されている高齢者住宅も少なくありません。そうした状況下でリハビリを強制させることは、大きな矛盾をはらんでいるとは言えないでしょうか?

掲載PR一覧

  • 老人ホーム入居相談窓口