介護保険法改正

また起こった「介護疲れ殺人」 なぜ、男性ケアラーが加害者になることが多いのか?

 8月末、滋賀県在住の84歳男性が殺人未遂の容疑で逮捕されました。容疑は寝たきり状態の妻を絞殺しとうとしたもので、いわゆる「介護疲れ」を苦にしたものと思われます。
 明確な統計データがあるわけではありませんが、家族などを自分で介護している「ケアラー」は女性が多いと思われます。

しかし、今回の事件のように、介護を苦にして殺人・心中をするのは男性ばかりという印象を受けます。
今の時代、あまりステレオタイプに「男性は…」「女性は…」と論じるのは好ましくないのですが、今回は「なぜ、介護を苦にした殺人は男性が多いのか」「それを防ぐ方法はないのか」という点を検証します。

今回の事件を考える上でポイントとなるのは男性の84歳という年齢です。終戦時に6歳ですから、「男は強くあれ」という風潮の中で幼少期を過ごしたと考えられます。
また、大人になってからは高度経済成長の中で、いわゆる「モーレツ社員」として仕事一筋の生活をし「家庭のことは全て妻任せ」だったことも多いと思われます。現在、配偶者を介護している男性の多くは同じような世代でしょう。

 こうした男性の場合、「家事ができない」「弱音を吐けない」「地域社会と縁がない」という問題点があります。「男子厨房に入るべからず」という教育を受けてきたこともあり、炊事をはじめとする家事が全くできない男性もいます。
そうした男性が、配偶者が要介護になり、いきなり「家事の全てに加えて、介護まで行わなくてはならない」となったら、当然ながら心身両面での負担感は大きくなります。

 また「男は強いもの」「人に涙を見せてはいけない」という風潮が強かった時代を過ごしてきました。「誰かに相談したい、頼りたい」と思っても、それを是とせず、1人で全て抱え込んでしまいがちです。
また、仕事最優先の人生を送ってきた結果、地元に知り合いもおらず「頼る人がいない」という現実もあります。
近年はケアラーが悩みなどを共有できるSNSやオンラインサロンも増えていますが、84歳が利用するとも思えません。

加えて「介護は『成果』をもたらさない」という点があります。
いわゆる世の中の多くの「仕事」は、ビルや橋をつくったり、新商品を生み出したりと何らかの形で「成果」を残し、それに対して昇給や昇進という形で「評価」がされてきました。
それが辛い仕事を続ける上でのモチベーションにもなってきました。

 しかし、介護には成果がありません。
ほとんどの場合、相手の死によって介護が終了します。
そして、長年家族の介護をしたことに対して他人から何らかの評価を受けることもありません。
ビジネスの世界に長く身を置いてきた男性は、こうした「成果」「評価」を伴わないことを長く続けること自体が合わないと言えます。

しかし、ここに悲惨な結末を防ぐヒントがあると言えます。
介護をしたことに対し公的に評価をするのはどうでしょうか。ドイツにも介護保険制度がありますが、日本との大きな違いとして「現金給付」の仕組みがあげられます。

つまり、要介護者は介護保険サービスをいう「モノ」ではなく「お金」を受け取り、それを、自分を介護してくれる家族や友人に渡すことができます。
つまり、それまで「無償の奉仕」だった家族の介護を「有償の労働」にすることができるのです。


 この現金給付は、日本の介護保険制度創設時にも導入を検討する動きがありました。が「家族などの人間関係をお金に変えるのは好ましくない」と見送りになりました。
しかし、ケアラーのモチベーションという観点では、一定の効果があるのではないでしょうか。

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