高齢者の病気・疾患

医療用麻薬についての基礎知識

医療用麻薬についての基礎知識

「医師×福祉×経営」で感じたことを発信します、レギュラーコラムニストの柏木です。
 
前回は私が専門としている緩和ケアの領域で、最も話題に上りやすい痛みという身体症状についてお話ししました。
そして今回は、様々な誤解をされている医療用麻薬についてです。
皆さんにとって最も馴染み深い薬としては、「モルヒネ」という薬ではないでしょうか?
本当に抵抗感を抱く方は、もうこの時点でネガティブな感情が沸き起こっていると思います。
 
ただ、それはもしかしたらただの誤解かもしれません。
もしかしたら、なんらかの経験や見聞きしたことからの印象かもしれません。
医療用麻薬は、もしかしたら将来、ご病気で苦しむ、あなたの大切な方にとって大切な薬となる可能性があります。
 
今日は、そんな医療用麻薬のお話です。

医療用麻薬とは

まず、医療用麻薬の医学的な知識について整理しましょう。
ちょっとここは専門的な内容となりますので、関心の程度に合わせて読み飛ばしていただいて構いません。
 
まず、世間一般でいう麻薬とは、医療以外の目的で製造され、依存性を有する薬物を意味しています。
一方、医療用麻薬は、医薬品の基準に国の審査を受けて認可され、有効性と安全性が確認された上で医薬品として製造・販売が承認されており、厳重な管理が義務付けられているものを意味します。
 
つまり、皆さんからみると、同じ「麻薬」という言葉ですので、この点は混同しやすいところかと思います。
ただ、医学を学び、医療を実際に提供している我々にとって、この「麻薬」と「医療用麻薬」は似ているどころか、全く異なるものであることを覚えておいてください。
 
医療用麻薬は決して珍しい、特別な薬ではありません。
WHO(世界保健機関)が公開している、エッセンシャルドラッグと言われるリストがあります。
これは世界中のどの国においても、通常必要となる薬剤であるため、自国内で使用できるよう整備するべき医薬品というものです。
この中にはモルヒネが含まれており、世界中で使用されています。

なぜ鎮痛作用があるのか?

医療用麻薬は、痛みを伝える神経に作用し、痛みの信号が痛みの部位から脳に伝わりにくくすることで、痛みを和らげます。
皆さんが日常的によく処方される痛み止めとは全く異なるような、効果の出る仕組み(「作用機序」といいます)です。
そのため、実際のがん性の痛み(「がん性疼痛」といいます)への薬の治療は、他の種類の痛み止めとも併用して行われることが一般的です。
医療用麻薬の作用はそのほかにも、呼吸困難症状の軽減なども効果が認められます。

医療用麻薬の副作用 ①眠気 

医療用麻薬には代表的な副作用が3つあります。それぞれ見て行きましょう。
 
①眠気
医療用麻薬を使用し始めて最初の1週間ほどは、特に眠気を感じる方がいらっしゃいます。
それは、医療用麻薬自体は痛みといった神経の刺激を抑える作用がありますが、それは同時に眠気といった覚醒を妨げる方の作用に繋がります。
 
ただ、全ての方に眠気が出るわけでなく、たとえ生じても多くの方が1〜2週間程度で慣れて行くので安心してください。
私の経験上、「痛くてどうしようもなく、夜も眠れていなかった」状態であった方は、痛みが軽減してぐっすり眠っているということが多いです。
これは、どちらかというと良い対応ですので、眠気イコール常に悪いものと捉えず、状況に合わせた判断が必要かと思います。

医療用麻薬の副作用 ②嘔気

②嘔気
嘔気も医療用麻薬を使用する最初の頃や、量を増やすときに多い症状です。
報告にもよるのですが、30%〜50%程度で認められる副作用です。
 
こちらは吐き気止めを一緒に使用することで対応しますが、全ての人に生じる副作用ではないため、吐き気止めはいらなかったということも、もちろん経験します。
嘔気も1週間程度で慣れて行くことの多い副作用ですので、ずっと吐き気が持続する場合には医療用麻薬が原因ではなく、他の原因を検討する必要があります。

医療用麻薬の副作用 ③便秘

医療用麻薬の副作用で、最も多いのはこの便秘です。
経験ある方も多いかもしれませんが、便秘は食欲の低下や、気分の落ち込みの原因となり、時には腹痛といった新たな身体症状を引き起こします。
 
医療用麻薬は痛みを伝える神経に作用することを先に述べましたが、腸の働きを調整する神経にも作用します。
腸の働きは、「ぜんどう運動」といって腸自体が伸縮を繰り返して食べ物を運ぶ働きと、食べ物を運びやすくするように様々な消化液を分泌し、最終的には消化と栄養の吸収を行う働きがあります。
医療用麻薬はこの腸の働きを低下させてしまうので、結果として便秘となります。
 
この便秘という副作用は、前者の2つと異なり、医療用麻薬を使用する患者の多くが経験し、しばらく頑張れば慣れるということもありません。
ですので、便秘に対する薬や、食事や排泄習慣の工夫で対処する必要があります。

まとめ

今回は医療用麻薬の作用と副作用について見て行きました。
まずは一般的に広く知られ、恐れられている「麻薬」とは明確に異なるものであることをご理解いただければ幸いです。
 
そうはいっても、やっぱり怖い。
だって、依存症になるんでしょ?といったことを感じてませんか?
次回は、医療用麻薬にまつわる様々なイメージや懸念を、もう少し具体的に解説して行きます。

この記事へのコメント

下記入力欄より、この記事へのご意見・ご感想をお寄せください。
皆さまから頂いたコメント・フィードバックは今後の内容充実のために活用させていただきます。
※ご返答を約束するものではございません。

この記事を書いたコラムニスト

柏木 秀行 (カシワギ ヒデユキ)

医師・社会福祉士・経営学修士

1981年広島県呉市に生まれる。筑波大学医学専門学群を卒業後、福岡の飯塚病院に初期研修医として就職。救急、感染症、集中治療などを中心に研修を行った。地域医療を支える小規模病院に出向した際、医療経営と地域のヘルスケアシステムづくりをできる人材になりたいと感じ、グロービス経営大学院で経営学修士を取得。また、社会保障制度のあるべき姿の観点を、研修医教育に取り入れたいと感じ社会福祉士を取得し育成に取り組む。現在は飯塚病院緩和ケア科部長として部門の運営と教育を行いながら、診療所の経営コンサルトをオフタイムに兼任。緩和医療専門医、総合内科専門医、プライマリ・ケア認定医・指導医。

掲載PR一覧

  • 老人ホーム入居相談窓口
  • 株式会社ベイシス
  • 株式会社プレジオ