高齢者の病気・疾患

「痛み」という症状への対応

前回までのコラムに関してお願い

「医師×福祉×経営」で感じたことを発信します、レギュラーコラムニストの柏木です。
 
前回まで、いざという時の話し合いと題して、人生の最終段階での医療内容や意向に沿った過ごし方に関する話をしてきました。
皆さん、どのように感じられたでしょうか?
実は、私自身は本業が医師ですので、本当に切迫した状況で、当事者となった患者や家族と話すことが通常なのです。
 
そのため、みなさんのように、比較的健康で、少なくとも今すぐ何かを決めなければならないといった状況にない方が、どのように感じられるかというのは非常に興味深いのです。
苦言や批判でも結構ですので、是非感想を聞かせてください。

がんになると、どんな症状が出るのか

さて、今回は少し、みなさんの緩和ケアのイメージにより近い症状の話をしようと思います。症状のなかでも特に身体症状と言われる、体の症状についてです。

例えば、痛みはその最もメジャーなものですね。
私ががん患者と話すときによく聞かれることがあります。
「すごく痛いんですよね?痛みのために非常に苦しむんでしょう?そんなことを考えていると不安で不安で・・・。」といったものです。

さて、いかがですか?
みなさんも、もし自分ががんになったら同じように医師に相談しますか?
 
「がん=痛み」というイメージを皆さんがどういったところで獲得しているのかは、私はわかりません。
私が患者や家族から聞く範囲の推測ですが、映画や近しい方からの経験談かなと思っています。
 
ここでクイズです。
 
がん患者をたくさん集めて、その中で痛みがある人を集計するとどのくらいの割合の方が痛みがある(もしくは、経過中に痛みを経験した)と答えると思いますか?
もちろん肺がんだけというような一つのがんだけでなく、様々ながんと診断されている患者をごちゃ混ぜにした中でですよ。
 
研究結果から申し上げると、約70%の方ががんと診断されてからの経過中に痛みを経験したそうです。
どのように思われるでしょうか?
「ほらやっぱりがんは痛みがあるんじゃん!」と思った方、その通りです。
 
「あれ、全員が全員痛いわけじゃないんだ。イメージよりずっと少ない」と思った方、それもその通りです。
私が何を言いたいかというと、がんという病気における痛みという症状が多いかどうかはそれぞれの受け取り方によって左右されますが、少なくとも全ての患者が痛みを経験するわけではないということです。
にもかかわらず、先ほどの私に「痛いんですよね?」と非常に心配しながら尋ねて来られた患者は、まるで自分が必ず耐え難い痛みに苦しむことが運命のように感じ、不安と恐怖にとらわれてしまっています。
私が「実際にいまは痛みがありますか?」と尋ねると、「いまは大丈夫ですよ」と答えるにもかかわらずです。

医療情報を「役立たせる」とはどういうことか

現在は医療者でなくても、医学情報がインターネットなどで簡単に手に入ります。
私自身はみなさんが自分自身で情報収集し、医学情報に触れることは、決して悪いことだと思いません。
むしろヘルスリテラシーと呼ばれる、自分自身の健康について主体的に考えることのできる能力の中核をなすものだとすら思います。

ただ、情報は役に立ててナンボです。
こういった状況での「役立つ」というのは、その医学情報を知ることで備えるべきことにきちんと備え、安心できることには安心するということだと思います。
その視点からいえば、先ほどの患者はいま現在痛みがないにもかかわらず、生じるかもしれない症状に非常に苦しんでしまっています。
そうなってしまわないよう、あまりお一人で辛い思いをする前に、信頼できる医療者と相談してみてください。

<医療用麻薬って知ってますか?>

がん患者のうち、痛みを経験しない方が3割いるとはいえ、やはり痛みは多い症状の一つです。
実際に痛みが生じた場合、どのように対応すれば良いのでしょうか?
がんによる痛みは、専門用語で「がん性疼痛」と呼ばれます。
現在は非常に多くの鎮痛薬が開発され、がん性疼痛に対する治療は非常に発展しました。
 
そしてその中核をなすのが、医療用麻薬と呼ばれる薬剤です。
みなさんが聞いたことがある薬としては、モルヒネが最も有名な薬です。
さて、ここで皆さんの中には、「えっ!?」と感じた方もおられるかもしれません。
いやいや、みなまで言わずとも、私もプロですのでわかりますよ。
 
何が言いたいか。
でも医療用麻薬は本当に誤解の多い薬ですので、次回はその疑問や抵抗感に対して私なりの意見をお話ししていこうと思います。

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