高齢者の病気・疾患

医療用麻薬に関する懸念

医療用麻薬に関する懸念

「医師×福祉×経営」で感じたことを発信します、レギュラーコラムニストの柏木です。
 
今回は前回に引き続き、モルヒネを代表とする医療用麻薬に関してです。今回は医療用麻薬に関する質問で、私が医療の現場でよく聞かれる、もしくは懸念として示されることをQ&A方式で紹介して行きたいと思います。
 
医師としての見解ですので、医学的な妥当性については担保しているつもりですが、医学においても結論が出ていない議論はたくさんあります。
 
なので、いろいろな医師の意見を見ている方にとっては、少し医師ごとによって意見が異なるように感じられるかもしれません。

Q:麻薬と聞くと依存症が心配です。依存症にはならないのですか?

これは非常によく聞かれる質問です。
こういった質問をされる方は、おそらく日々報道されるような、違法薬物の使用で「依存症」となった方のような光景を想像されているようです。
 
ここには、前提として医療用麻薬と違法薬物の違いと、そもそも「依存症」とはどのようなものかという2点について理解する必要があります。
まずは、医療用麻薬と違法薬物の違いについて説明していきましょう。
 
医療用麻薬は「麻薬及び向精神薬取締法により、医療用に使用が許可されている麻薬」です。医療用麻薬は、身体的な痛みが生じている際には、依存や耐性は形成されにくいことが科学的に証明されています。
一方、違法薬物は読んで字のごとく、「麻薬及び向精神薬取締法」により、使用や所持、譲渡、製造、輸出入が禁止されている薬剤です。
ですので、冒頭の報道で見るような光景とは、法的な位置付けは全く異なります。

次に、依存症についてです。
麻薬中毒や精神依存とは、対象薬剤に対して制御を失ってしまった状態を意味します。
実際には痛みがないにもかかわらず、薬を使用せずにいられないといったことや、違法な手段を使ってでも薬を手に入れようといった行動をとってしまう状態を意味します。
先にも述べたように、医療用麻薬と指定されている薬については、適切に使用している限りは、そう言った依存症が生じないことが確認されています。

A:医療用麻薬は適切に使用すれば、依存症にはならない

Q:米国では医療用麻薬の依存症患者が多くなり、社会問題となっていると聞きました。やはり、依存症になるのではないですか?

先ほどの医療用麻薬と違法薬物の違い、そして依存症についての質問を読まれた方の中で、少し詳しい方はさらに疑問を抱いたかもしれません。
「米国では医療用麻薬の依存患者が非常に多くなり、社会問題となっていると聞いたことがあります。やっぱり、医療用麻薬は依存症となるのではないでしょうか?」という疑問です。
米国で医療用麻薬の依存症が重大な問題となっているのは事実です。
過去15年間で薬物中毒による死亡者数は53万人と報告されており、増加傾向にあります。その原因の一つが、医療用麻薬の処方の増加とされ、これらの医療用麻薬は15年間で処方量が4倍となっています。
先進国の中で医療用麻薬の処方料は、米国が突出して1位です。
この処方量の差はどこから生まれるのでしょう?
米国の患者は特別なのでしょうか?
 
米国での医療用麻薬の処方量が多い原因の一つに、がん性疼痛(がん性の痛み)以外にも、慢性の腰痛や関節症と言われる膝の痛みなどに対しても、医療用麻薬が処方されることが大きな要因と言われています。
一方、日本ではほとんどの処方はがん性疼痛に対してで、がん以外の痛みに対しては非常に限られた使用となっています。
がんと違い、腰痛といった痛みは非常に長い経過の慢性の痛みです。
その治療は、痛み止めが主体というよりも、理学療法や職場環境の調整などが本質的な対応となります。
そういった痛みに対し、医療用麻薬を処方することは、結果として不適切な使用となってしまい、医療用麻薬の依存患者が増えているといわれています。
 
なぜそのように、医療用麻薬が非がん性疼痛に対しても使用されるようになったのでしょうか?
さまざまな理由が考えられますが、どうやら痛みに苦しむ患者にとって良い医療を提供するといった議論のみではないようです。
そこには、製薬企業をはじめとした様々な立場の利害関係もふくめ、複雑に絡み合っての状況です。
そして日本でも、医療用麻薬の対象疾患は、がん以外の疾患に対しても拡大していく傾向は、年々強くなっています。
本当に痛みに苦しむ患者に対して適切な薬物療法が提供されることと合わせて、本当にその対応が医療用麻薬の処方というのは正しいか?医療用麻薬を安全に使用できるのか?という点について議論が重要となっていることは知っていただきたいと思います。

A:米国での医療用麻薬の使用状況は日本と大きく異なっており、その違いが医療用麻薬の不適切な使用による依存症患者を増やしていると考えます。

まとめ

だんだん、話が難しくなってきたかもしれません。
大切な薬だからこそ、きちんと理解して、正しく使用してもらいたいと思います。
次回も引き続き、医療用麻薬の懸念点についてお話しして行きます。

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この記事を書いたコラムニスト

柏木 秀行 (カシワギ ヒデユキ)

医師・社会福祉士・経営学修士

1981年広島県呉市に生まれる。筑波大学医学専門学群を卒業後、福岡の飯塚病院に初期研修医として就職。救急、感染症、集中治療などを中心に研修を行った。地域医療を支える小規模病院に出向した際、医療経営と地域のヘルスケアシステムづくりをできる人材になりたいと感じ、グロービス経営大学院で経営学修士を取得。また、社会保障制度のあるべき姿の観点を、研修医教育に取り入れたいと感じ社会福祉士を取得し育成に取り組む。現在は飯塚病院緩和ケア科部長として部門の運営と教育を行いながら、診療所の経営コンサルトをオフタイムに兼任。緩和医療専門医、総合内科専門医、プライマリ・ケア認定医・指導医。

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