介護以外について

介護会社が「畑違い」の事業を手がけるメリットは? 2

ホテル運営のケースから学ぶ その②

 前回に続き、小規模多機能型居宅介護事業所に併設したホテルを運営している広島県尾道市の介護事業者「ゆず」のケースを元に、介護事業者が畑違いの事業を手がけるメリットなどを検証していきましょう。

 介護事業者が保険外サービスを手がける場合には「できれば本業の介護サービス事業に何らかのプラスになれば」ということを求めます。その結果として、前回述べたように比較的介護と近い領域の事業を行うことになります。
では、ホテルの運営は介護事業とって何らかのプラスの効果があるのでしょうか。

 前回のコラムでも触れましたが、このホテルには専属のスタッフがおらず、ホテル業務は全て小多機のスタッフが行っています。宿泊客と直接に接するのはチェックイン・チェックアウト時ぐらいですが、社長は「さまざまな人たちと接することで、スタッフの接遇力・マナーなどが向上しました」とそのメリットを語ります。

また、小多機とホテルは狭い遊歩道を挟んで向かい合っているだけでなく、小多機は窓を広くとった設計になっています。このため、宿泊者は客室に滞在している間にもスタッフが介護をしている様子が自然に目に入ります。こうした「常に外部の人から見られている」という意識も、スタッフの言動に良い影響を与えています。こうしたことが結果として介護事業所の評判を上げることにもつながります。

 ホテル運営は小多機の利用者側にもメリットがあるそうです。利用者は希望すれば、庭の手入れや宿泊者用パジャマのタグの縫い付けなどのホテルの業務を手伝うことができます。ときにはフロント業務を手伝うこともあります。

こうした「人のために働くこと」は、高齢者の身体・認知機能の訓練だけでなく、生きがいづくりにもなります。ゆずが運営する看護小規模多機能型居宅介護事業所のある利用者は、ホテルの庭の手入れを続けた結果、要介護認定が外れたそうです。今では有償ボランティアとして1日3時間程度働いているとか。
 
 利用者が「働く」高齢者施設は少なくありませんが、その内容は「配膳・下膳を手伝う」「洗濯物をたたむ」など「施設のお手伝い」に留まっているケースが大半です。そうした範囲を超えた労働を行うことは、高齢者の心身の健康にとって大きなプラスになると思われます。
 

 最後に「介護事業のことを多くの人に知ってもらうことができる」というメリットがあります。このホテルのフロントは小多機内に設けられていますので、チェックイン・チェックアウト時に宿泊者は自然に介護現場の様子を目にすることになります。また、利用者の送迎の様子に触れることもあります。

 家族に介護が必要な状態である、介護事業所に出入りをする仕事をしている、などといったことが無い限り、一般の人が介護事業所の中に入る機会はほとんどないでしょう。ホテル滞在中のわずかな時間とはいえ、見学会などの「よそ行き」でない介護事業所の姿を見聞きするのは貴重な経験といえます。こうした経験をする人が増えることで、介護に対する社会の関心・理解が深まることが期待できます。
 
 もちろん、宿泊者の多くは地域外ですので、介護に関心や興味を持ったとしても、介護事業者にすぐに直接的なプラス効果が生じるわけではありません。しかし、長期的な視点に立てば、就労者の増加など介護業界全体にメリットが及ぶことが考えられます。

 このように、一見すると畑違いと思われるような分野でも、それを手がけることが結果として介護事業にプラスの効果をもたらすことがあります。保険外サービスを行う場合は、こうしたことも念頭に入れておくといいかもしれません。
 

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この記事を書いたコラムニスト

西岡 一紀 (ニシオカ カズノリ)

なにわ最速ライター

介護・不動産・旅行

介護系業界紙を中心に21年間新聞記者をつとめ、現在はフリーランスです。
立ち位置としてじ手は最もキャリアが長い介護系が中心で、企業のホームページ等に掲載する各種コラム、社長や社員インタビューのほか、企業のリリース作成代行、社内報の作成支援などを行っています。

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