介護以外について

介護会社が「畑違い」の事業を手がけるメリットは? 1

ホテル運営のケースから学ぶ その①

 「今後、介護報酬が増えていくことは考えにくい」などの理由から、保険外サービスに力を入れている介護事業者も少なくありません。現在手がけている介護保険事業との親和性の高さなどを考え、高齢者を対象にした配食・給食事業や家財整理などの事業を行うケースや、訪問介護・看護やリハビリテーションなどを完全自費で行うケースが多いようですが、中には全く畑違いの事業に進出するケースもあります。

介護事業者がそうした事業を手がけるのにはどのようなメリットがあるのでしょうか。
今回は、広島県尾道市でホテルを運営する介護事業者の事例を元に検証してみましょう。

この事業者は、認知症グループホームや小規模多機能、看護小規模多機能などを運営する「ゆず」で、2014年に創業しています。

元々介護事業所を運営していた地域で土地を購入し、昨年4月に小多機を開設するのですが、
その際に、同じ敷地内に3室の小規模ホテルを開業しました(建物は別です)。
現在までのところ、宿泊客の2割は「このビジネスモデルを見学したい」などのニーズをはじめとする介護関係者だそうですが、8割は一般の観光客。
ホームページやホテル検索サイトを見て予約をするため「介護事業者が運営するホテル」であることを知らないケースがほとんどだそうです。

「介護事業者が全く畑違いのビジネスを展開するメリット」の1つ目はこの点にあるのではないでしょうか。
介護と親和性の高いサービスを提供するのは、「既存のサービス利用者やその家族を顧客にできる」という点では確かに手間がかからず効率的です。
しかし、地方では高齢者人口自体が既に減少を続けている地域も多く、今後は保険外サービスのマーケット自体も縮小していくことは避けられません。

それに対し、ホテル事業は全国の一般消費者が対象になります。事実、このホテルの宿泊客の95%が尾道市民以外です。尾道は観光地として有名で、新型コロナが広がる前までは「しまなみ海道を自転車で走りたい」と外国人も多数訪れていました。人口13万人弱の地方都市の介護事業者でも全世界を相手にビジネスができる、という可能性を秘めています。

業種にもよりますが、こうした大きなマーケットが開けているというのが、畑違いのビジネスを手がけるメリットです。
 

 しかし、一方で、全く畑違いのビジネスを手がけることは「これまでとは違う知識やスキルを持った人材を採用・育成していかなくてはならず、企業にとって負担が大きい」とも言われます。この点についてはどうなのでしょうか。

このホテルには専属のスタッフがいません。ホテル業務は全て隣接する小多機の介護スタッフが行っています。そもそも、このホテルは宿泊に特化しており、食事の提供や、一般的なフロントサービスは行っていません。いい意味で「チェックインからチェックアウトまではほったらかし」なのがモットーです。

ですからスタッフの業務は鍵の受け渡しとチェックアウト後の清掃程度です。どちらも介護スタッフの経験や能力があれば普通にこなせる業務でしょう。つまり、仕組みを上手く工夫すれば、全く畑違いの事業でも、今いるスタッフだけで問題なく行えます。

また、この小多機のオープニングスタッフ募集時には、「ホテルも運営するなど、これまでの介護事業とは違う」という印象を求職者が持ったのか、同社のこれまでの介護事業所に比べてスタッフ確保などがスムーズに進んだそうです。

次回も、この介護事業者のケースを元に「全く畑違いの事業を手がけるメリット」について解説していきます。

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この記事を書いたコラムニスト

西岡 一紀 (ニシオカ カズノリ)

なにわ最速ライター

介護・不動産・旅行

介護系業界紙を中心に21年間新聞記者をつとめ、現在はフリーランスです。
立ち位置としてじ手は最もキャリアが長い介護系が中心で、企業のホームページ等に掲載する各種コラム、社長や社員インタビューのほか、企業のリリース作成代行、社内報の作成支援などを行っています。

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