【介護業務効率化コラム】生産性向上とDXで実現する新しい介護のカタチ
1. 序章:なぜ今、介護の「働き方改革」が必要なのか?
介護経営者の皆様、日々の現場運営で「人が足りない」「業務に追われている」と感じることはありませんか?
慢性的な人手不足は、介護業界全体が抱える構造的な課題です。
限られた人材で増え続ける要介護者に対応するためには、職員一人ひとりの業務負担が過剰になりがちです。
しかし、この課題を解決するための「介護業務効率化」は、単なる残業削減やコスト削減に留まるものではありません。
その真の目的は、業務の無駄を徹底的に排除し、生まれた時間を「利用者と向き合う時間」に転換することにあります。
本コラムでは、介護現場の生産性向上を実現するための具体的な手法を、ICT導入という視点を中心に据えながら詳しく解説します。
2.業務改善の基本原則「3M」を排除せよ
介護現場の業務改善を始めるにあたって、まず取り組むべきは「ムリ・ムダ・ムラ(3M)」の徹底的な排除です。
・ムリ(無理)
職員の能力や体力、人員配置基準を超えた業務負担。
人手不足からくる長時間労働や過重労働がこれにあたります。
・ムダ(無駄)
業務の目的を果たしていない作業や、不要な作業。
紙での情報共有や二重入力などが該当します。
・ムラ(斑)
業務の質やスピードにばらつきがある状態。
特定の職員に業務が集中したり、情報共有に抜け漏れがあったりすることが原因です。
これらの3Mを排除することで、業務負担を軽減し、職員の疲労を和らげ、最終的には離職率の低下に繋がります。
特に、紙ベースで行われがちな介護記録や情報共有は、時間的コストとヒューマンエラーのリスクを増大させるため、優先的に見直すべきです。
2.1現場を変える5S活動
物理的な環境を整えることも、業務効率化の重要な一歩です。
介護現場における「5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)」活動は、業務のムダを減らし、安全な介護サービスを提供するための基本です。
・整理
「いるもの」と「いらないもの」を分け、不要な書類や期限切れの物品を処分する。
・整頓
必要なものをすぐに取り出せるように、定位置・定品・定量を決めて配置する。
・清掃
常にきれいな状態を保ち、転倒の原因となる水滴などを拭き取る。
・清潔
整理・整頓・清掃を維持するルールを決め、チェックリストなどで可視化する。
・しつけ
決められたことを守る習慣をつけ、新しい業務手順をスムーズに浸透させる。
3.テクノロジーが拓く「生産性向上」の道
介護現場の課題解決には、テクノロジー、すなわちICT導入が不可欠です。
2024年度の介護報酬改定では、ICT活用による生産性向上を評価する加算が新設され、国もテクノロジーの導入を強く推進しています。
3.1介護記録の電子化と事務作業の削減
介護職員は、利用者への直接的なケア以外にも、事務作業に多くの時間を費やしています。
申し送り書の作成やバイタルチェックの記録など、これらは業務全体の約1割を占めることもあります。
特に、紙媒体での記録は、介護記録電子化という言葉が示すように、大きな課題です。
・時間短縮とコスト削減
介護記録を電子化することで、転記作業や書類を探す手間が削減され、大幅な業務時間短縮に繋がります。
あるデイサービス企業では、事務作業時間が大幅に削減され、売上が10%アップした事例もあります。
また、紙代や印刷代、書類の保管スペースも削減できます。
・情報共有の円滑化
電子化された記録はリアルタイムで共有できるため、職員間の連携がスムーズになり、情報伝達の抜け漏れや行き違いを減らせます。
これにより、より的確で質の高い利用者ケアが可能となります。
3.2見守りシステムと介護ロボットの活用
夜間の見回りや身体的負担の大きい移乗介助は、職員の心身の疲労を蓄積させる一因です。
見守りシステムや介護ロボットは、こうした負担を大きく軽減します。
・夜間巡回の負担軽減
ベッドに設置する見守りシステム(例:眠りSCAN)や映像付きナースコールは、利用者の体動やバイタルサインをリアルタイムで把握し、夜間の巡回回数を削減します。
これにより、夜勤者の疲労を軽減できるだけでなく、利用者の転倒予防にも繋がります。
・身体的負担の軽減
移乗支援ロボットやパワーアシストスーツ、体位変換支援機器などの介護ロボットは、職員の身体的負担を軽減し、腰痛などの職業病を予防します。
ある施設では、中腰の姿勢を取る際の腰への負担が軽減され、職員の腰痛の訴えがなくなった事例も報告されています。
・人員配置基準の緩和
2024年度の介護報酬改定では、見守りシステムなどのテクノロジー活用や適切な役割分担により、人員配置基準を柔軟に適用できる措置が講じられました。
これは、業務効率化が直接的に経営効率の改善に繋がることを意味します。
3.3コミュニケーション効率化ツールの導入
介護現場では、職員間の密な情報共有が不可欠です。
しかし、広い施設内での電話やPHSでのやり取りは非効率であり、聞き間違いや伝達漏れの原因となります。
・リアルタイムな情報共有
リアルタイム音声グループツール(例:Buddycom)やチャットツール(例:elgana)を導入することで、ハンズフリーでの情報共有が可能になり、緊急時の迅速な対応を実現します。
・人間関係の改善
情報共有がスムーズになることで、職員間の行き違いや誤解が減少し、職場の雰囲気が改善される傾向にあります。
これにより、職員の心理的負担が軽減され、チームワークが向上します。
4.組織運営から見直す「業務効率化」
4.1シフトの最適化と役割分担
人件費は介護事業所のコストの大部分を占めますが、単に人員を削減するのではなく、シフトを最適化することで、生産性を向上させることができます。
・無駄な時間の排除
職員の出勤時間に30分の差をつけることで、引き継ぎ時の残業を減らし、業務のピークタイムを分散させます。
また、清掃や記録など、午前中にやる必要のない業務を午後に回すといった工夫も有効です。
・適切な役割分担
バイタル測定や配膳、清掃、洗濯などの専門資格を必要としない業務を「介護助手」に任せることで、資格を持つ職員は利用者へのケアや観察といった専門的な業務に集中できます。
これにより、職員の負担が軽減され、サービスの質も向上します。
4.2業務マニュアルの作成と継続的な研修
業務のムラをなくすためには、誰がやっても同じ質のサービスを提供できる体制を構築することが重要です。
・マニュアルの活用
介護の業務手順や書類の記入方法をマニュアル化することで、職員のスキルを標準化し、情報伝達の抜け漏れを防ぎます。
特に、動画でマニュアルを作成し、QRコードで簡単に閲覧できるようにすれば、業務効率が格段に向上します。
・継続的な研修
新しいICTツールの導入時だけでなく、定期的に研修を開催することで、職員のスキルアップを促し、新しいツールへの苦手意識を少しずつ和らげることができます。
5.ICT導入を成功させるためのステップ
ICT導入にはコストや職員の抵抗といった課題が伴います。
しかし、これらは計画的に進めることで克服可能です。
・目的の明確化
なぜICTを導入するのか、その目的を「記録時間を短くして利用者と関わる時間を増やす」など、職員が納得できる形で明確に共有することが最も重要です。
・スモールスタート
まずは、小規模なシステムから導入し、成功体験を共有することで、他の職員の心理的ハードルを下げることができます。
・補助金の活用
ICT導入には、国や都道府県が管轄する「ICT導入補助金」や「IT導入補助金」といった支援制度を積極的に活用することで、費用負担を大幅に軽減できます。
6.結論:業務効率化は「人」のための投資
介護事業における業務効率化と生産性向上は、単なる経営効率の追求ではありません。
それは、職員の心身の負担を軽減し、彼らが仕事にやりがいを見出せる環境を創出するための「人」への投資です。
職員が業務改善によって生まれた時間を利用者との質の高いコミュニケーションに充てることで、利用者満足度が向上します。
また、仕事の価値を再認識し、モチベーションが向上すれば、離職率の低下という好循環が生まれます。
DX(デジタルトランスフォーメーション)は、もはや一部の先進的な事業所だけのものではありません。
介護業界の未来を切り拓き、この厳しい時代を生き抜くために、今こそ、あなたの事業所で「新しい介護のカタチ」を実現する時です。
業務効率ツール導入効果と費用対効果表.pdf ( 46 KB )
介護の三ツ星コンシェルジュ



