【介護経営コラム】倒産危機を乗り越える。収益を最大化し、コストを最小化する戦略
1. 序章:過去最多の「介護事業所 倒産」に立ち向かう経営者へ
介護経営者の皆様、日々の運営で「倒産」という言葉が現実味を帯びていませんか?
東京商工リサーチの調査によると、2024年の介護事業所の倒産件数は過去最多を更新し、特に訪問介護事業所の倒産が急増しています。
2025年上半期だけでも、訪問介護事業所の倒産件数は過去最多を記録しました。
この厳しい現実の背景には、様々な要因が複合的に絡み合っています。
国際情勢や円安による物価高騰は、光熱費や物品調達コストを押し上げ、職員の給与を上げたくても上げられない状況を生み出しています。
一方で、介護報酬は国が定めた法定価格であり、他の業界のようにコスト上昇分を利用者負担に転嫁することが難しいという、特殊な構造も影響しています。
こうした状況を乗り越え、持続可能な「介護経営」を実現するためには、漠然とした不安を具体的な行動に変えることが不可欠です。
本コラムでは、倒産という最大の「介護リスク」を回避し、事業の健全性を高めるための「収益改善」と「コスト削減」の具体的な鉄則を徹底解説します。
2.倒産リスクの深掘り:なぜ今、淘汰が加速しているのか
介護事業所の倒産は、単なる「経営失敗」ではありません。
それは、業界が抱える構造的な課題が表面化した結果です。
特に、負債1億円未満で従業員10人未満、資本金1千万円未満といった小規模事業者の倒産が全体の8割以上を占めており、業界内での淘汰が加速している現状が浮き彫りになっています。
2.1売上不振の構造:介護報酬と利用者数の壁
介護事業所の主な収入源は、介護保険制度によって定められた「介護報酬」です。
2024年度の介護報酬改定では全体でプラス改定となりましたが、一部の訪問介護サービスでは基本報酬が引き下げられています。
この「介護報酬改定」による売上への影響に加え、利用者数の減少も「売上不振」の大きな要因となっています。
訪問介護事業所の倒産の約84%が「売上不振」を理由としており、これは決して他人事ではありません。
2.2コスト高騰の圧力:物価高と人件費の板挟み
物価高騰は、介護事業所の「運営コスト」を直接的に圧迫しています。
光熱費や消耗品費、食材費など、日々の経営にかかる費用が増加する一方で、介護報酬はすぐに引き上げられるわけではありません。
この利益率低下は、職員の給与を上げられないという悪循環を生み、深刻な人手不足に拍車をかけています。
3.収益改善の鉄則:売上を「稼ぐ」ための3つの柱
3.1稼働率の向上:地域に「選ばれる」事業所へ
売上を増やすための最も基本的な戦略は、「稼働率の向上」、つまり利用者数を増やすことです。
そのためには、以下の取り組みが不可欠です。
・広報活動の強化
ホームページやパンフレットの作成、地域イベントへの積極的な参加を通じて、事業所の認知度を向上させます。
特に、自社の強み(USP)を明確にし、ターゲット層の心に響くメッセージを発信することが重要です。
・相談・体験利用の促進
利用希望者やその家族が気軽に相談できる体制を整え、体験利用の機会を提供することで、利用への不安を取り除きます。
・地域連携の深化
地域包括支援センターや医療機関との連携を強化し、利用者の紹介を促します。
・サービス提供時間の工夫
利用者やその家族の多様なニーズに応えるため、夜間・休日サービスや延長サービスを検討することも、稼働率向上の鍵となります。
3.2介護報酬加算の取得:収益の「単価」を上げる
介護報酬の基本単位が固定されている中で、売上を増やすもう一つの方法は「介護報酬加算」を積極的に取得することです。2024年度の介護報酬改定では、ICT活用加算が新設されるなど、テクノロジーの導入を評価する流れが強まっています。
また、サービス提供体制強化加算や、新設された介護職員等処遇改善加算など、事業所の体制を整えることで取得可能な加算を洗い出し、計画的に取得することが、「利益率」向上のために非常に重要です。
加算取得には、人員配置や設備など、一定の要件を満たす必要があります。
自事業所が取得可能な加算をリストアップし、必要な準備を進めることが、収益安定への第一歩となります。
3.3多角経営の検討:安定した「資金繰り」を目指す
介護事業単体では「利益を出しにくい」構造に直面しています。
そこで、関連事業との連携による「多角経営」も視野に入れるべきです。
例えば、訪問介護と居宅介護支援、または福祉用具貸与事業などを組み合わせることで、新たな収益の柱を構築し、経営基盤を強化することができます。
4.コスト削減の鉄則:無駄をなくし、利益を「守る」
どんなに売上を上げても、コストがそれを上回れば「介護事業所倒産」のリスクは高まります。
ここでは、事業の体質を強くするための「コスト削減」戦略を、具体的な「経費削減」項目に沿って解説します。
4.1人件費の最適化:生産性向上で実現する「利益率」
介護事業所のコストの大部分を占めるのが人件費です。
これを削減すると聞くと、単純な人員削減を連想しがちですが、それは離職率を高める危険な行為です。
真の「人件費の最適化」とは、生産性を向上させ、無駄な残業代や採用コストを削減することです。
・シフトの最適化
過去の利用者実績データを分析し、利用者数が少ない時間帯の人員配置を見直すことで、法定配置基準を満たしながら無駄のないシフトを組むことが可能です。
・業務効率化(ICT導入)
介護記録の電子化や見守りシステムの導入は、事務作業にかかる時間を大幅に短縮し、職員が本来のケア業務に集中できる環境を創出します。
これにより、間接的に人件費を削減するだけでなく、職員の負担を軽減し、離職率低下にもつながるため、長期的な視点での費用対効果は非常に高いと言えます。
・介護助手の活用
洗濯や清掃といった専門資格を必要としない業務を介護助手やパート・アルバイトに任せることで、正規職員の業務負担を軽減し、サービス提供に集中させることが可能です。
4.2運営コストの削減:目に見えない「運営コスト」を見える化する
日々の細かな出費も、積み重なれば大きな「運営コスト」となります。
これを「仕組み化」することで、継続的なコスト削減が可能になります。
・水道光熱費
LED照明への切り替えは、長寿命で消費電力が少なく、月々の電気代を削減します。
また、節水シャワーヘッドや節水コマの導入は、水道代を大幅に削減できる可能性があります。
電力会社の自由化により、電力プランを見直すことも有効です。
・消耗品費
おむつや洗剤などの消耗品は、まとめ買いや複数の業者から見積もりを取る「共同購買」によって、単価を下げることができます。
また、在庫管理を徹底し、過剰在庫や廃棄ロスを防ぐことも重要です。
・通信費・賃料
長期間使われていない固定電話回線の解約や、格安通信業者への乗り換え、さらには賃料の減額交渉も、固定費削減に大きく貢献します。
・送迎費
送迎ルートを最適化するシステムを導入することで、燃料費と人件費を同時に削減できます。
5.まとめ:健全な「介護経営」への道
本コラムで解説した「収益改善」と「コスト削減」は、どちらか一方だけでは不十分です。
売上を上げるだけでは、コストの増大に追いつかず、コストを削減するだけでは、サービスの質が低下し、利用者離れを招くリスクがあります。
この二つを車の両輪として機能させることが、倒産リスクを回避する唯一の方法です。
2024年4月から施行された「財務諸表の公表義務化」は、すべての介護事業所に対して「経営の見える化」を要求しています。
これは、自事業所の「利益率」を全国平均と比較し、経営の強みと弱みを客観的に把握する絶好の機会と捉えるべきです。
そして、国や自治体が提供する「IT導入補助金」や「小規模事業者持続化補助金」といった支援策を積極的に活用し、経営改善の投資に繋げることが、この厳しい時代を生き抜くための戦略です。
健全な「介護経営」への道は、単なる「儲ける」ことではなく、事業全体を俯瞰し、無駄をなくし、生まれた資金を人材やICT、サービスの質向上に再投資する好循環を生み出すことにあります。
今こそ、事業の現状を徹底的に見直し、未来に向けた強固な事業体質を構築する時です。
コスト削減項目と実践アイデア一覧表.pdf ( 46 KB )
介護の三ツ星コンシェルジュ



