介護事業経営者のための収益改善コラム~加算獲得・保険併用・経費節減の実践と注意点
2024年度の介護報酬改定は、介護事業者の経営戦略に大きな転換点をもたらしました。
加算制度の一本化や加算率の引き上げ、保険併用の柔軟化、そして経費節減による経営改善。
これらのテーマに沿って、現場の成功事例と経営者が押さえるべき実務上の注意点を整理します。
1. 加算獲得による収益アップの成功事例と注意点
2024年度の介護報酬改定では、「介護職員等処遇改善加算」など複数の加算が一本化され、加算率も引き上げられました。
特に訪問介護では新加算(Ⅰ)取得時に加算率が24.5%となり、従来より2.1%アップ。
これにより、加算取得による収益増のインパクトが大きくなっています。
成功事例
ある訪問介護事業所では、加算要件の「キャリアパス要件」「月額賃金改善要件」「職場環境等要件」を満たすため、職員のキャリアアップ制度を整備し、ICTを活用した業務効率化を推進。
申請手続きや記録管理も徹底し、加算取得と同時に職員の負担軽減・定着率向上も実現しました。
また、特別養護老人ホーム(A施設)では、加算管理専門チームを設置し、記録管理と職員教育を強化。
看取り介護加算の算定率を20%から60%に引き上げ、利用者1人あたり月額報酬を15,000円増加させるなど、収益アップに成功しています。
注意点
加算取得・維持には、
・人員配置や研修体制の整備
・記録管理の徹底
・職場環境等要件(生産性向上、ハラスメント対策、健康管理等)の具体的な実施
・厚生労働省や自治体の最新通知の確認
が必須です。
要件は複雑化しており、誤った運用や記録不備は返還リスクにつながります。
加算収益の配分も職種間で柔軟にできる一方、不公平感が出ないよう説明責任も重要です。
2. 医療保険・障害給付併用による収益アップの成功事例と注意点
介護事業所が医療保険や障害給付と併用することで、サービス提供の幅が広がり、利用者の獲得と稼働率向上につながります。
【成功事例】
事例1
要介護認定を受けた高齢障害者(例:脳血管障害後遺症で要介護2、障害支援区分4)が、介護保険の訪問介護サービスを利用。
しかし、介護保険の区分支給限度額を超える部分は障害福祉サービス(居宅介護・重度訪問介護)で補い、夜間の見守りや長時間の外出支援などもカバー。
事例2
視覚障害者のAさん(60歳、要介護2、障害支援区分4)は、介護保険の訪問介護とともに、介護保険では提供されない「同行援護」や「就労継続支援B型」など障害福祉サービスも併用。
事例3
介護保険でリハビリテーションを受けている高齢者が、別の疾病で医療保険によるリハビリや訪問看護も利用。さらに障害福祉サービスで長時間の見守りや外出支援も受ける。
これらの併用で、介護保険だけでは対応しきれない支援を補い、利用者の生活全体を支えると同時に、事業所の収益基盤も強化できています。
注意点
・医療保険・障害給付の適用範囲や請求ルールの正確な理解が不可欠。誤請求は返還・指導対象となります。
・障害給付併用の場合、支給量や適用は市町村(保険者)の判断。利用者の障害特性や生活状況を根拠に、必要性を行政に説明できる体制が重要です。
・利用者や家族への説明責任も発生し、サービス内容や負担額の違いを丁寧に説明することが信頼維持につながります。
3. 経費節減による収益改善の成功事例と注意点
経費節減は短期的な利益改善に有効ですが、サービス品質や職員の働きやすさを損なわないバランスが求められます。
成功事例
小規模多機能型居宅介護事業所で、過剰サービスの見直しと職員の意識改革、業務管理の徹底を実施。
適正な人員配置、サービス内容の見える化、家族との信頼関係強化、営業活動の強化などにより、1年で2400万円の利益改善を達成。
職員数を削減しつつ利用者数を増やし、収益性を大幅に向上させました。
注意点
・経費削減を目的とした人員削減やサービス縮小は、サービス品質の低下や職員負担増加に直結するリスクがあります。
・現場の声を反映し、適正なバランスを保つことが重要。
過剰なコストカットは利用者満足度の低下や離職率の上昇を招き、長期的には事業の持続性を損なう可能性があります。
4.総合的な注意点と経営者への提言
いずれの施策も、現場の実態把握と職員・利用者への丁寧な説明、法令遵守が不可欠です。
収益アップだけでなく、サービス品質や職員の働きやすさを両立させる視点が、持続的な経営改善には重要です。
経営者が意識すべきポイント
・制度改定の最新情報を常にキャッチし、柔軟に対応できる組織体制を構築する。
・加算取得や保険併用の際は、要件・ルールを正確に理解し、現場に落とし込む。
・コスト削減は現場の納得感とサービス品質維持を両立させる。
・収益改善策を単発で終わらせず、PDCAサイクルで継続的に見直す。
介護事業経営の現場は、制度改定や社会環境の変化に常にさらされています。
持続可能な成長のためには、収益アップとサービス品質向上の両立を目指し、現場と一体となった経営改善を進めていくことが今後ますます求められるでしょう。
介護の三ツ星コンシェルジュ