認知症の方の肖像権と介護事業所でのSNS利用について
先日、弊社のお問い合わせへ「認知症の方の場合、自分で判断するのが難しい方がいます。その場合はその方の家族や身元引受けの方が載せるのに了承していればよろしいのでしょうか?また、エフェクトをつけてもこの人だと特定出来てしまう場合は違反になりますか?」というご質問をいただきしたので、注意すべき点をまとめさせていただきました。
ここ数年来のinstagramやtiktokと言ったSNSの利用が介護事業所でも活発になっています。SNSは写真や動画を投稿するだけで自事業所の活動を紹介できるので、結構な事業所で利用されています。
SNSを活用すれば、①職員採用につながる可能性がある、②営業手段になる、③ご家族に向けての情報発信になる等のメリットがあります。
ただ、SNS利用にあっては様々な法的リスクがあることの理解が必要です。
まず、理解頂く必要があるのは、「肖像権」の問題です。肖像権とはみだりに他人から写真を撮影されたり、公表されたりしないよう、誰に対しても主張できる権利のことを言います。
肖像権には、一般に以下の2つが含まれます。
①みだりに撮影されない権利
②撮影された写真をみだりに公表されない権利
介護事業所の利用者の写真がホームページなどに無断に掲載されたという場合は、上記①、②(特に②)の権利が問題になってきます。
それでは、介護事業者側、職員側にはどんな規則に違反するのかと?というと、
①個人情報保護法に違反する
②人権侵害の恐れがある
③就業規則の懲戒事由に当てはまる恐れがある
④利用者様との契約違反になり債務不履行となる
が考えられます。
①については、利用者様を特定できる写真をSNSに投稿すると、個人情報の漏洩になり、介護事業者としての個人情報漏洩防止義務違反になってしまうということ。
②については、そもそも本人の了解なしに他人の容姿を撮影することは人権侵害(プライバシーの侵害)として不法行為となり、損害賠償請求の恐れがあるということ。
③については、結果として会社に損害を与えたり信用を害する行為を行った場合は服務規律違反となり、懲戒の対象になる場合があること。
④については、契約書には必ず「秘密保持」条項が盛り込まれているので、この条項に違反し、契約違反として損害賠償請求をされる恐れがあるということ、等をしっかり理解しておく必要があるでしょう。
SNSを活用するにあたっての対策とは
それでは、介護事業者側はどういう対策があるのか?巷でよく言われているのは、サービス利用開始にあたっての契約書をかわす場合に、「個人情報の取り扱いに関する同意書」を結んでおくことということです。
①イベント開催の際のレポートなどの写真を撮るときに顔写真が掲載されてもよいか、②施設が発行する広報誌やホームページなどに写真を掲載してもよいか等を書面で確認し、同意を得ている人のみ掲載するようにします。
利用者の方が認知症など、判断能力が十分でない場合は、家族や成年後見人等がこういった同意書について同意をするかどうかを決めることになります。
また、最近は職員個人がSNSで情報発信をしていることも多いので、従業員個人が自分で運用しているSNSなどにも無断で利用者の顔写真を撮って掲載することがないよう、定期的に研修などの際にSNSの注意点等を学ぶ時間を作る必要があります。
このようなことを踏まえ、写真や動画の投稿を行うのですが、更に掘り下げると、どこまでが「肖像権」に該当するかと言うことの理解が必要です。
一般的には、①「個人の特定性」(撮影された写真や動画によって個人が特定されるかどうかが、肖像権が侵害されたかどうかを判断する基準の一つになります。
たとえば、後ろ姿や、誰か分からないピンボケの写真、偶然小さく映り込んだ写真等は個人の特定性がないとされています。②「同意の有無」(個人を特定できる写真などであったとしても、撮影・公開に関する被写体の同意があれば肖像権は問題になりません。)。
③「被写体の精神的苦痛の受忍限度」(同意なく、個人が特定される写真等を撮影・公開されたとしても、全てが肖像権侵害の問題になるわけではありません。撮影・公開されることで被写体が被る精神的な苦痛が、社会通念上受け入れるべき限度を超えるかが基準になります。)。
③については大変難しい概念ですので、SNSを活用する際には①②に気を付けるべきではないでしょうか。特に①に関しては、個人が特定されないような撮影が必要だということを理解しましょう。同意のない利用者様には画像や動画にぼかしを入れ、個人が特定できないようにすることが必要です。
認知症の方の肖像権
認知症の方の写真、動画を利用する場合は、利用契約時にご家族の同意書をとっておくことが必須となりますが、同意書を頂いたご家族以外からのクレームが多いことを理解しておく必要があります。
また、ご家族が同意していたとしても、利用者様の人格を貶めるような悪ふざけととられるような行為(例えば、一般的に普段粉わないような仮装や化粧を行った写真や動画の掲載)を行い、その写真や動画をSNS等に掲載すれば、「肖像権侵害」どころか、「人格尊重義務違反」(介護保険法に基づく行政処分の一つ。介護保険法及び 基準条例の基本理念の一つとして規定されている「人格尊重義務」に違反すること。最も象徴的なものは、「身体拘束や高齢者虐待」。)にあたります。
こういうリスクを理解すれば、例えご家族と同意書を交わしていても、認知症の方の写真や動画の投稿は行わない方が良いとご理解頂けるのではないかと思います。
介護の三ツ星コンシェルジュ