簡単なようで意外と難しい「高齢者住宅の名前付け」 「年賀状に住所を書きづらい」と入居断られることも
「介護が必要になったと思われたくない」
70代前半の男性が、自立の人を対象にした高齢者住宅への入居を検討していました。
候補のひとつとなった物件は、建物自体は少々年季が入っていたものの、立地やサービスなどの面では申し分がなく、業界の中でも高い評価を受けていました。
また、本人の資産状況も入居に際して全く問題はありませんでした。
しかし、最終的にはこの高齢者住宅は候補から外されてしまいます。
その理由は「物件名」にありました。
具体的な物件名の記載は控えますが、この高齢者住宅の名称には「高齢者」「介護」「福祉」をイメージさせるような言葉が使われていました。そのことを男性は敬遠したのです。
この男性は、今でも企業の顧問や団体の役員として働いており、年齢の割には公私ともに人との付き合いが盛んにありました。「知人・友人に転居の挨拶状や年賀状を出したときに、自分の住所から高齢者住宅に入居していることがわかってしまうのでは」ということを心配したのです。
もちろん、彼は元気ですし、入居するのは自立者向けの高齢者住宅です。
入居をする理由は見守りや医療など日々の安心を得るためですが、そうした細かい事情は第三者にはわかりません。
この男性が心配するように「いかにも高齢者住宅」という名称では、「介護が必要になった」と思われてしまいます。
もしかしたら「もう働くのは無理では」と思われ、今の仕事にも影響がでるかもしれません。
自立者向けの高齢者住宅では70代、場合によっては60代で入居をする人もいます。
この年齢なら生活に際して何らかのサポートが必要な人は少ないでしょう。
そうした年齢層の人が「介護が必要になったと思われるのは避けたい」と感じるのは自然なことです。
「高齢者」「介護」「福祉」を連想させる高齢者住宅の名称は、安全や安心感を与える効果がある一方で、この男性の事例のようなリスクもあることに注意が必要です。
一般マンションのような名称が増えているが…
近年では、自立者向け、要介護者専用を問わず高齢者住宅は「高齢者」「介護」「福祉」を連想させる言葉を使わず、一般のマンションと同じような名称を付けるケースが増えています。
要介護者専用高齢者住宅の入居者平均年齢は80代後半程度。
この年齢ならば介護が必要になっていても不思議ではありませんので、高齢者住宅と一目でわかる名称であってもそれほどのマイナスイメージを与えることはないかと思われますが、「高齢者住宅は施設ではなく住宅」という意識が強まっている結果でしょうか。
しかし、実際に高齢者住宅運営事業者に話を聞くと「やはり高齢者住宅。完全に一般のマンションと同じというわけにはいかない」という答えが返ってきます。
マンションの名称には外国語が多く使われています。
英語はもちろん、フランス語、イタリア語、スペイン語などで「都会感」「高級感」「洗練さ」などを演出します。
しかし、高齢者の中には「横文字が苦手」という人が少なくありません。英単語は普段の生活で見たり聞いたりする機会も多いのでまだしも、フランス語やイタリア語となるとほとんどなじみがありません。
そうした外国語を用いた高齢者住宅ですと、「入居者は『正しく発音できない、書けない』のが当たり前」と運営事業者は語ります。外部のケアマネジャーやソーシャルワーカーがなかなか正しく覚えてくれないのも悩みとか。
高齢者住宅の名称は、ブランディングの観点からもとても重要です。
「手厚いケアで、安心・安全で、楽しい暮らしを提供」といった介護事業としての特徴と、高級感や特別感などといた住宅としてのイメージをバランスよく採り入れた、わかりやすい名称が求められるといえそうです。