高齢者の病気・疾患

緩和ケア病棟ってどんなところ?③

医師×福祉×経営」で感じたことを発信します、レギュラーコラムニストの柏木です。
引き続き緩和ケア病棟についてです。
変わりつつある緩和ケア病棟の役割についてお話ししていきます。

これまでの緩和ケア病棟

緩和ケア病棟の求められる役割が変わってきています。
かつて 緩和ケア病棟といえば、治療が困難となったがん患者が入院し、基本的には退院することはありませんでした。
終の住処という意味合いが強かったんですね。
そして、そこでは非常に丁寧なケアが提供され、症状緩和にも習熟したスタッフが配置されています。
皆さんの緩和ケア病棟に対するイメージもこういった光景ではないでしょうか?

こういった古典的な緩和ケア病棟が果たしてきた役割は、非常に大きなものがありました。
日本で初めて緩和ケア病棟ができたのは、1981年で、聖隷三方原病院に設立されました。そういう意味では、日本においてはまだ30年に満たない時間です。
その間、緩和ケア領域における多くの取り組みが、緩和ケア病棟でなされてきました。
ケアの実践はもちろんですが、人材の育成や調査研究活動といったことも、全国に広がった緩和ケア病棟を中心として取り組まれてきたのです。
現在では、400施設以上が全国に存在しています。

これまでの緩和ケア病棟が抱えるジレンマ

ここまで述べたように、緩和ケア病棟が果たしてきた役割は非常に大きなものがありました。
一方、その運営にはジレンマもあり、批判されることもあります。
それらのジレンマについて述べていきます。

入院待機期間の長さ

入院待機期間とは、入院するまでの待っている期間のことで、一般的には外来などで「入院しましょう」と医師と相談し、実際に入院するまでの期間を意味します。
通常、緩和ケア病棟に入院する患者さんは、入院する前は外来に通院していたり、緩和ケア病棟への入院を相談する目的で外来に紹介されます。
その外来の予約をし、実際に受診して、入院の必要性があると判断され、入院の予約をするという流れです。
この一連の手順を踏む期間が、長いと1ヶ月ほどかかることもあるようです。
入院が必要となるまで時間的な猶予がある場合は良いのですが、病状が切迫している場合などは困りますよね。

対応できる患者の少なさ

緩和ケア病棟が増えたとはいえ、入院で対応できる患者数には、やはり限度があります。
地域にもよるのですが、一般的にがんで亡くなる患者の10%程度が緩和ケア病棟で亡くなるとされています。
また、医療機関なので、その運営には一定の施設要件があり、緩和ケア病棟としての保険診療をするためにはルールを守る必要があります。
 
その代表的なものが、対象となる疾患です。
現在、緩和ケア病棟は、がん(悪性腫瘍)もしくはエイズ(後天性免疫不全症候群)の患者に限り、保険診療としての緩和ケア病棟への入院ができます。
確かにがんで亡くなる人は多いのですが、がんだけが唯一の死因であるとか、がん以外の疾患でも様々な症状や苦悩があるはずです。
限られた対象となる患者に対してのみ、緩和ケア病棟の手厚いケアを提供することをどのように考えるか?というのは難しい問題です。

変化する緩和ケア病棟の役割

以上のようなジレンマを抱える緩和ケア病棟ですが、その役割が変化しつつあります。
終の住処としての機能を期待され、提供してきた緩和ケア病棟です。
一方、さらに増える高齢者、がん患者を地域全体で支えることに医療全体が対応していくことが求められています。
その中で、緩和ケア病棟もその役割を改めて問われています。
具体的には、緊急入院での対応と、在宅退院の支援です。地域で過ごすがん患者さんが、緩和ケア病棟への緊急入院が必要となる、なんらかの事情が生じた場合に可能な限り対応することが求められ始めています。
そして、緊急入院に対応する事に対して、診療報酬の金銭的なインセンティブも設定されています。
もちろん緩和ケアに限らず医療は公益性も求められる事業なので、売上が上がるから緊急入院にしようという単純な話にはなりません。
現在入院している患者さん、入院を待っている患者さん、緊急入院が必要となる患者さんのそれぞれに悪い影響がないように調整する必要があります。
緊急入院の方が儲かるから、いま入院している人をほったらかしてでも、緊急の入院を対応しようというのは良くないですよね。

また、基本的には多くの患者さんが自宅で過ごしたいという希望を持っていることもあり、自宅で過ごしたいという以降には地域の医療機関と連携して在宅でケアを受けられるように支援することもより求められるようになりました。
こちらも、緩和ケア病棟の診療報酬でより高単価の診療報酬を請求する際には、在宅への退院割合が一定水準以上であることが求められています。

まとめ

前回に引き続き、緩和ケア病棟について解説して行きました。
次回、やっと緩和ケア病棟について最後にしようと思います。

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この記事を書いたコラムニスト

柏木 秀行 (カシワギ ヒデユキ)

医師・社会福祉士・経営学修士

1981年広島県呉市に生まれる。筑波大学医学専門学群を卒業後、福岡の飯塚病院に初期研修医として就職。救急、感染症、集中治療などを中心に研修を行った。地域医療を支える小規模病院に出向した際、医療経営と地域のヘルスケアシステムづくりをできる人材になりたいと感じ、グロービス経営大学院で経営学修士を取得。また、社会保障制度のあるべき姿の観点を、研修医教育に取り入れたいと感じ社会福祉士を取得し育成に取り組む。現在は飯塚病院緩和ケア科部長として部門の運営と教育を行いながら、診療所の経営コンサルトをオフタイムに兼任。緩和医療専門医、総合内科専門医、プライマリ・ケア認定医・指導医。

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