高齢者の病気・疾患

緩和ケア病棟ってどんなところ?②

緩和ケア病棟ってどんなところ?②

「医師×福祉×経営」で感じたことを発信します、レギュラーコラムニストの柏木です。前回は緩和ケア病棟の名称や、機能に関するお話でした。
今回は前回の続きで、緩和ケア病棟についてより深く述べて行きます。

医師が困る「緩和ケア病棟にはどうすれば入院できますか?」という質問

私は職業柄、「緩和ケア病棟にはどうすれば入院できますか?」と聞かれます。
まあそう聞きたくなる気持ちは理解できないわけでもないのですが、実はこれは非常に答えにくい質問です。
答えにくい理由を順番に述べて行きます。

理由① 緩和ケア病棟ごとに異なるため、一般化した回答が述べにくい

前回、緩和ケア病棟といっても色々な運営をしていることを述べました。
病院というのは緩和ケアに限らず、どの分野においても各施設で対応できることと出来ないことにかなりのばらつきがあります。
理由としては、その医療行為を専門としている医師がいるかいないかといった、スタッフによるものがまず一つです。
そのほかにも、同じ緩和ケア病棟でも比較的長期の入院期間を想定して運営している緩和ケア病棟と、短期間の入院を想定している場合があります。
診療報酬上も緩和ケア病棟が2種類に分けられています。
患者さん、ご家族の方からはこういった事情が直接知らされることは通常ないので、わかりにくくて当然です。
よく、「長く入院できるのが良い病院」と認識されている肩が多いのですが、私自身は必ずしもそうは思いません。
これは、また次回以降で述べましょう。
何れにせよ、一つ目の理由は、各施設がそれぞれの運営をしているので、誤解がないように正確にお返事しようと思うと答えられないのです。

理由② そもそも「なんとか入院させてもらおう」と頑張って入院するものではない

入院という医療形態の認識に、医療者と患者の間でギャップが存在すると思います。
こちらも緩和ケア病棟に限らず、他の領域でも共通するものですが、「入院とは希望して行うものではない」というのが私の意見です。
前回にも少し触れましたが、保険診療上、入院というのは「検査や治療を含む療養を入院の上で行うことが必要と医師が判断する」場合に認められます。
なので、自分は緩和ケア病棟で過ごすことを希望しているので、なんとか入院できるようになりませんか?という相談は、少し前提がずれています。
医師はその責務として、患者ごとに医療資源が大きな不平等なく割り振られるように判断することが挙げられます。
具体的には、「お金持ちだから入院させてあげるね」のような不公正な扱いをしてはならないという、倫理的な側面を大切にするといったことです。
その観点から、冒頭の質問に対して、「あなたが緩和ケア病棟に入院するには、○○すれば良いですよ」というアドバイスができないのです。

想定される対応と心配

以上から、冒頭の質問に対して、私が言えるのは、「信頼している医師に相談し、もし本当に緩和ケア病棟の入院が必要もしくは適切であれば、緩和ケア施設と連携してくれると思いますよ」ということでしょうか。
また、もし私が診察室で、患者さんから直接「緩和ケア病棟にはどうやったら入院できるでしょうか?」と聞かれたら、「どういった気がかりからの質問ですか?」と尋ねると思います。
このような質問の際は、患者さんは何か困っていることや心配事があり、どうして良いか分からず、少なからず混乱していることが多いと感じるからです。
ただ、通常は患者さん自身が自分の心配事をうまく伝えられることはないので、そのような患者に「あなたは入院できません。悪くなったらまた来てください。」というのは、あまりにも本質的な対応ではないと思うのです。

私がそのように尋ね、よく経験する気がかりとしては、以下の通りです。そして、それに対して私なりの対応を書いて見ました。

心配① 「先々、病気が進行したときに、入院できるかが心配」

これは当然の心配ですよね。
入院が必要な時は、もちろん入院しましょう。
ただし、入院で行う医療内容によっては、緩和ケア病棟以外で対応することもあります。
例えば、肺炎を起こして、肺炎の治療をしようという目的での入院の際は、救急病床といってより肺炎の治療をしっかりできる入院病床で対応させてください。
また、時に満床といって、患者さんが多く、入院できるベッドがない時があります。
その際は病状が許せば待っていただくか、急いで入院することが必要な時は、近隣の医療機関を紹介する場合があります。

心配② 「介護など家族に迷惑をかけたくない」

こちらもよくある心配です。ただ、医療機関は介護や住まいを提供する場ではありません。
例えば、「オムツを替えるのが負担になっているから入院させてください」とか、「うちはクーラーがないので、夏が終わるまで入院できませんか?」といった要望にお答えすることはできません。
そりゃそうだろと思ったかもしれませんが、私自身は結構そういった相談を受けることがあります。
諸事情で自宅での生活が困難となっている状況と推測しますので、介護保険の申請など、医療機関として可能な支援を提案しています。
こちらも「あなたは緩和ケア病棟に入院できません」というのでは、事態は変わりません。

まとめ

前回に引き続き、緩和ケア病棟について解説して行きました。
次回も、緩和ケア病棟に関する、よくお問い合わせいただく内容を中心にお話していく予定です。

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この記事を書いたコラムニスト

柏木 秀行 (カシワギ ヒデユキ)

医師・社会福祉士・経営学修士

1981年広島県呉市に生まれる。筑波大学医学専門学群を卒業後、福岡の飯塚病院に初期研修医として就職。救急、感染症、集中治療などを中心に研修を行った。地域医療を支える小規模病院に出向した際、医療経営と地域のヘルスケアシステムづくりをできる人材になりたいと感じ、グロービス経営大学院で経営学修士を取得。また、社会保障制度のあるべき姿の観点を、研修医教育に取り入れたいと感じ社会福祉士を取得し育成に取り組む。現在は飯塚病院緩和ケア科部長として部門の運営と教育を行いながら、診療所の経営コンサルトをオフタイムに兼任。緩和医療専門医、総合内科専門医、プライマリ・ケア認定医・指導医。

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