医療と薬について

在宅医療をもっと普及させるには

在宅医療 普及の現状

介護と同じく医療の分野でも、国は「施設から在宅へ」という方向性で進めていますが、医療・介護現場では、その意向が反映されているとは言えないのが現状です。
 
もし在宅医療が普及すれば、定期的な診察によって状態が悪化する前に気づくことができたり、慌てて病院へ連れて行く必要もなくなったりと、大きなメリットがあります。
 
厚生労働省が発表している「人口動態統計年報」の2009年度調査結果によると(厚生労働省 2010)、昨今の日本においては病院で死の瞬間を迎える方が大半となってきています。
 
国の在宅志向が強まる中、終末期に対応する介護・医療のあり方が問われる時代となっています。
 
ただ、現状、在宅医療は普及していません。なぜ在宅医療は広まらないのでしょうか?
国の在宅志向が強まる中、終末期に対応する介護・医療のあり方が問われる時代となっています。
 
ただ、現状、在宅医療は普及していません。なぜ在宅医療は広まらないのでしょうか?

(図:死亡場所の年間推移についてのグラフ。2009年度の人口動態統計年報の「死亡の場所別にみた死亡数・構成割合の年次推移」を基に作成。横軸は西暦、縦軸は割合を示す。)

「在宅医療」 言葉は最近聞くようになったけど。

まず、在宅介護に取り組む家族の皆さんが、在宅医療の存在を知らない、あるいは在宅医療に対し誤解しているという初歩的なことが考えられます。
 
在宅医療とは、通院が難しい患者の方が自宅や施設で、訪問する医療者の継続治療を受けるという医療の一つの形です。
 
臨時で医師を呼ぶ「往診」だけでなく、定期的な「訪問診療」を含むこの在宅医療は、「自宅で療養したい」というニーズに最適な医療方式です。
 
要介護の高齢者を自宅で介護するのは大変です。要介護のご高齢者のほとんどは持病があるため、定期的にクリニックに通う必要があります。
 
ご高齢者の容態が非常に不安定な場合、具合が悪くなるたびに病院に連れて行く、救急車を呼ぶといった状況が続くと家族は疲れてしまい、「いっそのこと医師が常駐している病院に入院してくれたほうが安心だし疲れない」と考えがちです。
 
家族が自宅で看取りたいと望んでいたとしても、なかなかそうできない現実があるわけです。
 
そういう苦労が多いのに、その解決方法である在宅医療の存在は中々家族には伝わらないのが現状です。
 
また、在宅医療のことは知っているものの、「これ以上お金と手間をかけたくない」「今の介護スタイルを変えたくない」などの心理が働いている可能性も考えられます。介護をするご家族、要介護者自身にとって、お金がかかることは、「それ以上やりたくない」と思ってあたりまえだと思います。
 
ようやくマスコミ等の喧伝で、「在宅医療」という言葉が少しずつ浸透してきましたので、その「存在」については皆さん意識するようになってこられたのではないでしょうか。

実際に利用しようとしても・・・。

在宅医療が広がらないもう一つの理由は、在宅医療を提供する医療機関数が少ないという点です。

2011年の厚生労働省のデータによれば、訪問診療を実施している医療機関は、病院28.0%、診療所20%と、全体の病院・診療所数と比べれば非常に少ない割合に留まっています。

その理由は、国の仕組みにも原因があります。

在宅療養支援診療所として登録するには、24時間対応が可能な医師、看護師を配置することや、24時間往診と訪問看護の提供が可能であること、在宅患者の緊急受け入れ体制を確保する必要性、ケアマネジャーとの連携、年1回、在宅看取り数を社会保険事務局長に報告するという要件があります。

日本医師会総合政策研究機構の「在宅医療の提供と連携に関する実態調査(2009年)」によれば、在宅療養支援診療所の医師のうち、70%以上が24時間体制への負担を感じているといいます。

つまり簡単に言えば、在宅医療を提供している多くの医師が「しんどい」と感じている、ということ。

確かに医師は、社会的意義の高い職業ではありますが、「しんどい」ばかりでは続かないのも無理はありません。

また、人口密度の低い地域ほど、訪問看護ステーションや介護関連施設の数が少ない点、医療者と介護関連職の意識の差が大きく、なかなか連携がとりづらい点、診療報酬がさほど高くない点なども問題としてあります。

どうすれば拡がる 在宅医療

在宅介護を多くの家庭が着手してはいるものの、在宅医療がなかなか広まっていきません。その現状に対して、国は診療報酬改定などすでに対策は講じてはいます。
 
2025年の医療・介護の基盤整備・再編へ向けて、2012年には在宅医療の診療報酬が増額されるなど手厚い策を採っています。
 
しかし、24時間往診と訪問看護の提供が可能でなければいけないなど、まだ乗り越えるべき壁が数多く存在します。
 
国が本気で在宅医療を推し進めていく気があるのであれば、
 
①国の予算でもっと在宅医療の制度をPRし、在宅介護を行っている家族に利用の促進をしてもらうこと
②医師が在宅医療に取り組みやすいよう、もっと制度を緩和すること
③診療報酬面でのさらなる制度の充実
 
このような対策が必要不可欠になってくるのではないでしょうか。
 
また、有料老人ホームやサービス付高齢者向住宅、グループホーム等「施設」に訪問する際の診療報酬を、「一般家庭」に訪問するより効率的だからと言って、下げるのは如何なものでしょう。
 
医師と言えども、理想だけでは生きていけません。折角、しんどい在宅医療の道を選ぼうとしている若手開業医の芽を潰さないためにも、一般家庭と施設が同一報酬だった昔に戻すのも、在宅医療普及のためには必要ではないでしょうか。

参照元

厚生労働省,2010,「第5表 死亡の場所別にみた死亡数・構成割合の年次推移」,人口動態調査,(2017年11月24日取得,http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suii09/deth5.html).
 

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この記事を書いたコラムニスト

荒牧誠也 (アラマキセイヤ)

介護の三ツ星コンシェルジュ編集長

株式会社ベイシス 常務取締役 事業本部長
1964年 大阪府大阪市生まれ
1988年 関西電力㈱入社。介護事業子会社 ㈱かんでんジョイライフや医療関係子会社 ㈱かんでん在宅医療サービスの設立や運営に従事。関西電力グループのメデイカル・ヘルスケア事業の企画業務や㈱京阪ライフサポートのM&Aに従事後退職。
2017年 関西電力㈱を退社。㈱ベイシスの取締役シニア事業部長に就任。

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