介護で会社をやめないために

「現在の職場に不満あり」は76% 離職を考える理由は「やりがいがない」が最多

介護業界の労働組合であるUAゼンセン日本介護クラフトユニオン(NCCU)は8月12日、全国の組合員を対象に実施した「就業意識実態調査2022」の結果を発表しました。この調査は今年3月から4月にかけて月給制スタッフ・時給制スタッフ合計8716人に調査票を配布して実施したもので、6044人が回答しています。今回は、その中から離職・転職に関する意識について詳しく見てみましょう。

具体的な不満点は「低賃金」「業務量」が上位

月給制スタッフのうち「働く上での不満がある」と回答したのは75.7%。具体的に不満を感じる部分のトップ3は「賃金が安い」「仕事量が多い」「何年たっても賃金が上がらない」となっており、業務量や自分の経験・スキルと収入がマッチしていないことが不満につながっている現状が見て取れます。
 次に「それらの具体的な不満により離職を考えたことがあるか」を聞いてみたところ「賃金が安い」ことで離職を考えたことがあるのは70.0%でした。同様に「仕事量が多い」では66.8%、「何年たっても賃金が上がらない」は66.1%という結果でした。一見すると非常に多いように思えます。しかし「離職を考えたことがある」という割合が最も高かった不満内容は「やりがいがない」の92.6%でした。続いて「上司、先輩、同僚が仕事を教えてくれない」の87.5%、「子育て・介護の支援策が充実していない」の80.0%となっています。

 これはなかなかに興味深い結果といえます。「不満の絶対数」としては業務量や賃金が多いのですが、そうした数値などで可視化できる要素よりも「やりがいを感じられない」「仕事を教えてくれない」といった形にしにくいことの方が離職につながる割合が高いのです。
現在、介護人材確保に向けて官民を問わず処遇改善を進められています。介護職員処遇改善加算もキャリアパス制度の導入が算定要件になっています。しかし、今回も調査結果からは、こうした施策は、不満の解消にはなっても離職原因の解消には繋がらない可能性が高いとも考えられえます。離職防止のために重要なのは「働くことの意味や目標を見い出せる」「わからないことをきちんと教えてくれる」職場環境の構築にあると言えます。

介護スタッフ「リーダーに仕事を教えて欲しい」

この点については、KAIGO LEADERS LABという介護系シンクタンクの調査結果が参考になりそうです。
介護従事者に「介護現場のチームリーダーに求める能力」を尋ねたところ、一般介護スタッフでは「スタッフに助言を行い、成長を促す指導力」が1位となりました。しかし、当のリーダーや管理者・施設長クラスではその回答は下位となり、代わりに「多人数をまとめるチーム構築力」が1位となりました。つまり、リーダーや上層部は「リーダーと介護職では根本的に立場が違う。リーダーはマネジメント層であり、介護技術などを教える職種ではない」と考えている一方で、介護スタッフは「リーダーは自分たちの延長線上の立場にある。具体的な仕事の技術やノウハウをもっと教えてもらいたい」と考えているのです。こうした考え方の乖離が「仕事を教えてくれない」という介護スタッフの不満につながっていると言えるのではないでしょうか。

 この乖離を解消するには「リーダーの立場・職務とは何か」を明確に定義づけ(それはもちろん組織によって違います)、それを全従業員共通の認識とすべきでないでしょうか。もし「リーダーは介護技術などを教える職種ではない」と法人上層部が考えているならば、それとは別に介護技術などを教える立場の職種を法人内に設けるなどと言った対応が求められそうです。

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この記事を書いたコラムニスト

西岡 一紀 (ニシオカ カズノリ)

なにわ最速ライター

介護・不動産・旅行

介護系業界紙を中心に21年間新聞記者をつとめ、現在はフリーランスです。
立ち位置としてじ手は最もキャリアが長い介護系が中心で、企業のホームページ等に掲載する各種コラム、社長や社員インタビューのほか、企業のリリース作成代行、社内報の作成支援などを行っています。

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