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「高齢者施設は、立地はあまり関係ない」は本当か? 開設場所と入居率の関係を探る

関西の分譲マンションデベロッパーが一時期シニア向け分譲マンションの開発に力を入れていたことがあります。
その理由について当時の社長は「他社との土地獲得競争が激しく、マンション建設に100%適した土地の仕入れが難しい。立地面などで一般マンションに適さない土地をシニア向けとして活用している」と語っていました。

このように、入居者が通勤や通学をしない高齢者住宅は、それほど開設場所は重要視されないと考えられています。
しかし、実際には道路一本違っただけで入居状況が大きく異なることもあるようです。

地元民より他市の住民に大人気

兵庫県の芦屋市といえば、日本を代表する高級住宅地。
その海沿いに500室を超える大型有料老人ホームが開設されました。
しかし、入居状況は2割程度と非常に低調でした。
その後、ホームは他社に承継されシニア向け分譲マンションに転用されましたが、有料老人ホーム時代とは一変して非常に好調な売れ行きとなりました。
その理由としては、価格が2000万円台とかなり安いことに加え「芦屋市の海沿い」という立地がありました。

関西に住んでいる方はご存じと思いますが、大阪~神戸間は「北の山側ほど住宅地としては高級」とされています。
このマンションが建つのは海沿いですから、庶民的なエリアといえます。
事実、芦屋市民は『あんなところは芦屋ではない』と冷ややかでした。
隣の西宮市や神戸市も住宅地としては人気のエリアでしたから、そこの市民も「あの場所ならば、今住んでいる場所の方が『格』がいい」と動きませんでした。

一方、興味を持ったのが、その周辺の庶民的な自治体の住民たちです。
元々地元・近隣の人ではありませんから「芦屋のどこか」といった細かいことまでは気にしません。
2000万円台で「芦屋市民」の肩書きが買えるということで、こぞって購入したそうです。

道路一本超えたら固定資産税激減

ある政令市A市の近くに、アクティブシニア向け分譲マンションが建設されました。
正確な住所は、A市とB町との境となっている道路沿いのB町側でした。

B町はA市のベッドタウンとして人口が急増していますが、やはり「政令市」と「町」では色々と違いがありました。
その一つは地価。
A市とB町では地価が全然違ったのです。
当然固定資産税も違います。
シニア向け分譲マンションは老人ホームなどとは異なり所有権が発生しますから固定資産税が課せられます。
「生活実態はほぼA市民、しかしB町民なので固定資産税は安い」。
このメリットを享受しようと考えるシニアは多く、販売は好調だったそうです。

隣の大都市の住民狙って施設を建てるも…

それとは全く別のケースもあります。
地方都市C市は、古くからその地域の中心として栄えており、約20万の人口を有していました。
しかし、地方だけあって、市の周囲はのどかな村となっていました。
その状況に介護事業者が目を付けました。

村はC市よりも建物を借りるコストが安く、市内の施設より安い家賃設定でも採算は合います。
つまり、村の中でもC市に近い場所に施設を設け、C市民に「場所はほとんどC市で、家賃は市内よりも安い」と訴えようとしたのです。
同じことを考えた事業者は少なくないようで、C市の周囲の村には安さを売りにする施設が複数ありました。

しかし、そのビジネスモデルは2005年に瓦解してしまいます。
そう「地域密着型サービス」が創設されたのです。
実はC市民を狙って周囲の村に建てられたのは認知症グループホームでした。
それが地域密着型サービスになったことで、C市民の利用が見込めなくなってしまいました。
少ない村の住民を巡ってグループホーム間の競争が激化しました。最も手っ取り早いのは値下げです。
一時期、この地域のグループホームでは「食費含めて1ヵ月5万円」などと言う値段も出ていたそうです。

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