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一般住宅に比べターゲットが未分化の高齢者住宅 「特定の趣味・愛好家向け」で差別化は可能か?

ホーム紹介のプロ「自分が入りたいホームが無い」

 コロナ前の話ですが、高齢者住宅入居相談事業の経営者と「理想の高齢者住宅とは」をテーマに意見交換をしたことがあります。

車好きのある経営者は「将来は自分で高齢者住宅を経営したい。私の様な人のために居室とガレージが大きなガラスを隔てて一体になっていて、愛車を眺めながら過ごせる・・・」と夢を語りました。
別の機会に同じテーマで話をした高齢者住宅入居相談事業の経営者も「自分が入りたいホームを自分で作る」と言い、あるコンセプトを口にしました。
このコラムの品位を考えて詳細は割愛しますが、男性のある欲求に対応したものでした。

彼らは、「その人の希望にあった高齢者住宅」を紹介するのが仕事です。
しかし、高齢者住宅を知り尽くした彼らでも、自分自身の趣味や欲求を考えた場合には「既存の高齢者住宅では満足できない」というのが結論でした。
そして、そうした趣味や欲求は誰しもが持っています。ということは、ほとんどの人は「今の高齢者住宅では、自分の希望にあった生活ができていない」ことになります。

一般住宅では「バイク好き向け」なども

一般のマンションやアパートでは、ずいぶん前から特定のターゲットに特化した物件が登場しています。

冒頭で紹介した「車好き」のための物件としてはガレージハウスがありますし、音楽が趣味の人向けに共用スタジオを備えた賃貸マンションもあります。
他にもオートバイやサーフィン、猫など特定の愛好家に対応した設備・機能を有した物件は珍しくありません。近年ですと、時代を反映して共用部にテレワークスペースを備えたものも登場しています。

これ以外にも、特定のブランドとコラボレーションし、そのブランドのファンを上手く取り込んでいる例もあります。

それに対し、高齢者住宅では、そこまで「ニーズの細分化」ができていません(入居者を高齢者に限定している時点でニーズの細分化とも言えますが)。
「リハビリ注力」「医療対応強化」「認知症ケアに強み」など介護・医療サービスの部分で他物件との差別化は図っていますが、「趣味や欲求」への対応としては、「ペット飼育可」の物件がちらほらある程度です。

この理由には、高齢者の場合は身体状況などから「趣味や欲求」の幅は広くはないという点がまずあげられます。
また、公的資金が入っている社会資本の一つという性格上、特定の趣味を持っている人だけを入居対象とするのは難しい点があるのも事実です。

しかし、入居者獲得に苦労する高齢者住宅が多い中では、できる範囲で「尖った」部分を持たせて、特定層に強くアピールしていくことも必要なのではないでしょうか。

新規入居者が持って来たのはアイドルのDVD

例えば趣味であれば「囲碁・将棋・麻雀」「落語・講談・浪曲」「歌舞伎・能」「美術」「音楽」「競馬・競輪」「釣り」「スポーツ」などがあげられます。

実際には演奏や競技はできなくても、同好の士が集まれば会話に花が咲き、コミュニティーが活性化します。
そして、これらの趣味は時代とともに変化をします。今の70代なら「ロック・フォーク」「テレビゲーム」も対象になるでしょう。
ある高齢者住宅に入居した女性が「どうしてもこれだけは自宅から持って来たかった」と段ボール箱から出したのはジャニーズアイドルグループのDVDだったそうです。

もう、そうした世代が介護サービスを利用する時代になっているのです。

また「趣味を楽しめる環境にある」ことは高齢者のやる気を引き出します。

あるアクティブシニア向け住宅には敷地内に野球場があります。
運営者は「入居者が野球をできるとは思っていない。

しかし『いつでも野球ができる』環境であることが、入居者の『いつかはみんなで野球をやろう』という意欲を引き出すことにつながる」と、その効果を語ります。

さらには、スタッフ確保の面でもメリットがあります。

例えば「釣り好きが対象の高齢者住宅」であれば、「介護には興味はないが、釣りに関わる仕事をしたい」という人が応募をする可能性があります。

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