介護業界 嚙み砕き知識・ニュース

介護職は本当に低賃金なのか? 後編

介護職は支出が少ない

前編でも見た通り、確かに介護業界の平均年収は全産業平均のそれを下回っています。
しかし、単純に「低賃金=生活が苦しい」というわけではありません。

例えば、いわゆる「都心で毎日外回りをする営業社員」の場合、事務作業などのために仕事中にカフェに入ることもあるでしょうし、取引先との交際・接待もあります。

それらの費用の中には経費で落とせずに自腹を切らなくてはならないものもあるでしょう。
スーツや鞄など仕事用に購入しなくてはいけない物も沢山あります。
毎日の昼食も都心なら1000円は見ておく必要があります。給与はそれなりに多くとも、出ていくものも多いのが現実です。

一方、介護職は、制服が支給されスーツなどは不要です。

勤務中にお金を使うことはなく、自腹での接待などもありません。
施設勤務の場合は補助が出て数百円程度で食事ができることもあります。
この様に出ていくものが少ないため、結果的に自由に使えるお金はほかの職業とあまり変わらないと言えます。

いわゆる「介護職」と呼ばれる人の数は2019年度で全国に約211万人います。
介護は主婦のパートなど非正規雇用者の比率が非常に高い職種ですが、一家の大黒柱として家族を養っている介護職も大勢います。

もし、本当に介護職が「低賃金で生活していけない」ならば、これだけ多くの人が介護業界で就労していないでしょう。

このことからも、介護職は実質的な収入は他産業と比べても決して遜色がないと言えるのではないでしょうか。

経営者自身が「介護は低賃金」と発信

では、なぜ介護職だけが「低賃金」であるとのイメージが強いのでしょうか?

それにはいくつかの理由が考えられますが、まず「経営者(や業界団体)が『介護業界は低賃金』と発信している」点が大きいでしょう。

前編でも見た通り、美容師・理容師の平均年収は介護の有資格者を下回っています。
しかし美容院や理髪店の経営者や業界団体は「うちの業界は低賃金だ」などとは決して口にしません。

それに対し、介護業界は、介護報酬を引き上げてもらうために「介護事業者は経営が厳しい。
従業員には低い賃金しか払えない」とアピールしてしまっています。

それは、飲み会の席での気軽な雑談や、SNSでのちょっとした呟きかもしれませんが、それでも経営者の発言ですから注目されます。

確かに介護報酬の引き上げは業界の発展にとって不可欠ですが、そのために経営が厳しいことをアピールするのは、戦略としては疑問があります。

また、「退職理由として『低賃金』は都合がいい」こともあげられます。
介護職の退職理由は「職場内の人間関係」が一番多いでしょう。

しかし、どこも極端な人手不足の中で「人間関係が嫌なので辞めます」と言っても、「面談をしよう」などといって引き止められるのは火を見るよりも明らかです。
ずるずると退職を引き延ばされ、モチベーションがあがらないままに働いても本人には何のメリットもありません。

それに対して「給料が安くて生活していけません」という理由ならば企業はどうすることもできません。
したがって実際の退職理由はどうであれ、一番すんなりと辞められる「低賃金」を口にすることになります。
こうした積み重ねの結果として「介護職=低賃金」というイメージにつながったと思われます。

夢を描きにくい業界であることも一因

最後に、前編の最後に触れた「美容師・理容師は介護職以上に低賃金なのに、なぜ不人気職と言われないのか」について考えてみましょう。

まずは、単純にイメージ自体が華やかでお洒落という点があると思います。
しかし、それ以上に、腕を磨いて実績を積めば、経営者として独立できたり、一流店に勤務して有名人のカットを担当し、自分自身も有名人になったりといった「将来の夢」が描きやすいことが大きいのではないでしょうか。

介護業界でも一介護職からステップアップして介護事業会社を立ち上げたり、メディアに取り上げられるなどして有名になったりする介護職もいますが、全体から見れば少数派でしょう。

介護業界は、どちらかと言えば「介護職の没個性化」を求めたがる傾向にあり、全体的にアピール力に欠けます。

アピール力がないことが低賃金というマイナス面ばかりを浮き上がらせる結果につながっているともいえます。

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この記事を書いたコラムニスト

西岡 一紀 (ニシオカ カズノリ)

なにわ最速ライター

介護・不動産・旅行

介護系業界紙を中心に21年間新聞記者をつとめ、現在はフリーランスです。
立ち位置としてじ手は最もキャリアが長い介護系が中心で、企業のホームページ等に掲載する各種コラム、社長や社員インタビューのほか、企業のリリース作成代行、社内報の作成支援などを行っています。

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