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「同一建物減算見直し」 高齢者住宅への影響は?

過剰介護などについての自治体のチェック強化

今年度の介護報酬改定では、通所系・訪問系サービスなどに適用されている、いわゆる「同一建物減算」について、以下のような見直しが行われました。

①通所系・多機能系サービスの同一建物減算等の適用対象利用者の区分支給限度基準額の管理は、減算対象者と非対象者との公平性の観点から、減算適用前(同一建物居住者以外の者に対して行う場合)の単位数を用いる。

②大規模型のデイ・通所リハ利用者の区分支給限度基準額の管理は、通常規模型利用者との公平性の観点から、通常規模型の単位数を用いる。

③サービス付き高齢者向け住宅等における適正なサービス提供確保の観点から、 訪問系サービス(定期巡回・随時対応型訪問介護看護を除く)、通所系サービス(地域密着型デイ、認知症対応型デイを除く)、福祉用具貸与について、事業所と同一の建物居住者にサービス提供を行う場合は、当該建物に居住者以外にもサービス提供を行うよう努める。
また、事業所指定時に「利用者のうち一定割合以上を併設集合住宅以外の利用者とするよう努める。
あるいはしなければならない」等の条件を付することは差し支えないことを明確化。

④ サービス付き高齢者向け住宅等居住者のケアプランについて、区分支給限度基準額の利用割合が高い者が多い場合、併設事業所の特定を行いつつ、ケアプランを作成する居宅介護支援事業者を事業所単位で抽出するなどの点検・検証を行うとともに、サービス付き高齢者向け住宅等の家賃確認やケアプラン確認を行うことなど、自治体による更なる指導の徹底を図る。
(効率的な点検・検証の仕組みの周知期間の確保等のため、10月から施行)

「要介護1で週6日デイ利用」の極端な例も

さて、この中でも③④は、過剰介護など、サービス付き高齢者向け住宅・住宅型有料老人ホーム(以下:高齢者住宅)の不適切と思われる運営の防止が目的です。
では、実際にどのような不適切な運営事例があるのでしょうか。

多くの高齢者住宅では、運営事業者が介護事業所を建物内に併設しています。
高齢者住宅では、利用者は「介護サービスは自由に選択できる」のが原則ですが、実際には多くの入居者が併設事業所で介護サービスを受けています。
これが入居者側の選択によるものであれば問題ないのですが、中には「高齢者住宅側等から強く求められた」「利用せざるを得ない状況だった」というケースもあります。

例えば、首都圏のある高齢者住宅には館内に浴室がありません。
唯一浴室があるのは併設のデイサービスの中です。
つまり、入居者は入浴のために強制的にデイを利用せざるを得ません。
これは「介護サービスは自由に選択できる」という大原則に反するもので、非常に不適切な事例と言えます。

また、ある高齢者住宅では、要介護1の入居者に対し、併設するデイを週に6回利用するというケアプランを作成しています。一般的には1週間当たりのデイ利用回数は1~3回であることなど考えると、非常に不自然なケアプランと言わざるを得ません。

そして後者の様な高齢者住宅は、消費者の間で高い人気を保っているケースがままあります。
「入居者全員が週に6日、自社運営のデイを利用する」ことが確定していれば、高齢者住宅運営事業者は入居者1人あたり月に約24万円の介護報酬が固定収入として見込めますので、その分、家賃や管理費など他の固定費を安く設定できます。
例えば、高齢者住宅の月額費用(家賃+管理費+食費)が月に20万円程度の地域で「月に18万円 地域最安値!」などと打ち出すことができるのです。

こうしたタイプの住宅は、10年ほど前に某コンサルティング会社が、公共工事の減少で売り上げ減に悩む地方の建設会社に「格安高齢者住宅の建設事業で儲けましょう」とアドバイスをしたことで、全国に広がりました。
また、その安い価格に引きずられる形で周辺高齢者住宅が値下げを余儀なくされ、経営環境が悪化、サービス品質が低下するという悪循環を生み出してしまっています。

10月18日に配信された読売新聞オンラインニュースによると、サービス付き高齢者向け住宅を所管する都道府県や政令市など129自治体にアンケート調査を行ったところ、約4割の自治体が、こうした不適切な介護の実態を把握しています。
しかし、コロナ禍ということもあり、殆どの自治体が「それに対して適切な指導を行えていない」とも回答しています。
9月末以降、コロナの新規陽性者数が急減していることを考えると、今後自治体の調査・指導等が本格的に行われるとも考えられそうです。

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