介護施設での暮らし

「働ける」をテーマに高い入居率を実現

人里離れた不便なホームでも人気

皆さんの中には、通っていた学校に「7不思議」があったという人もいるかと思います。
介護業界にも「7不思議」があります。
とは言っても具体的な内容については諸説あるのですが・・・

それらの諸説の中の一つに「人里離れた山の中にあるのに、常に高い入居率を保っている有料老人ホーム」があります。
高齢者向け住宅、特に自立高齢者を対象にした住宅は、入居者が買い物やレジャー、時には通勤などで日常的に外出することがあるため、街中や駅近など「生活に便利な場所」にあることが利用者募集の面で有利と言われています(もしくはブランド力のある高級住宅地にあるなど)。
それに対し、具体的な名称は差し控えますが、関東地方のある自立者向けホームは、近くの街(それも小さな地方都市レベルです)まで車で1時間、自分で車が運転できない人はホームのシャトルバス以外に交通手段がないという山の中にあります。
近くには集落もあり買い物も不自由です。
にもかかわらず、開設以来30年以上、高い入居率を維持しています(もっともコロナ拡大以降は、見学を制限していたこともあり、新規入居が減り、若干空室が増えているそうですが)。

その人気の理由の一つとして考えられるのが「入居者が働ける」という点です。
このホームを運営する会社は、ホームの隣地でファミリー層を主な対象にしたレジャー施設を運営しています。
希望する入居者は、有償ボランティアの立場で、このレジャー施設のスタッフとして働くことができます。
「何歳になっても働きたい」という高齢者は大勢います。
それは金銭的な目的ではなく「自分が社会の役に立っているということを実感したい」という承認欲求が大きな理由です。
それを満たすことが、高齢者の生きる意欲となり、認知症・介護予防や進行防止につながります。

近年では、この点に注目し「働く」をテーマにした介護事業所も増えています。 
しかし、他の「働く」がテーマの介護事業所では、要介護認定を受けている利用者が多いということもあり、仕事の内容は「洗濯物を畳む」「食事の下膳を手伝う」など、事業所の「お手伝い」の域を出ないことが大半です。
それに対しこのホームでは、本格的な仕事を任されます。
これが「働きたい」と考える高齢者の気持ちをがっちりつかんでいると言えます。

入居者の経歴に合わせて仕事を発注

同じような例をもうひとつ紹介します。

関西地方のある有料老人ホームでは、入居者の職歴や経歴に応じて、ホーム側が入居者にその人にあった仕事を依頼し、正式に雇用契約を結んで働いてもらいます。
以前、このホームは災害で建物の一部が損壊したことがありましたが、そのときは元大工だった入居者と雇用契約を結び、修繕をしてもらいました。
またセールスマン経験のある入居者は、運営会社の別事業の営業スタッフとして、体力などと相談しながら外回りをしているそうです。

こうした自分の得意な分野を活かして活躍できることが入居者の自信と満足につながっています。
また、今回紹介した2つのホームの共通点は「現金で報酬を支払う」という点です。
働ける介護事業所では、いわゆる「館内通貨」で報酬が支払われることが多いです。
いくら館内では本物の通貨の様に使えても実際にはおもちゃのお金ですし、用途が制限されます「自分が働いて得たお金で、孫に成人式のお祝い買う」などの喜びは味わえません。
本物のお金であればそれが可能になります。

労働に対して金銭的な対価を与えてしまうと要介護認定が取り消されてしまうなどの可能性もあり、ここで紹介した2つのホームの取り組みをどこの事業所でも導入できるというわけではありませんが、「働く」を他の介護事業所との差別化ポイントとして考えてみてはいかがでしょうか。

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この記事を書いたコラムニスト

西岡 一紀 (ニシオカ カズノリ)

なにわ最速ライター

介護・不動産・旅行

介護系業界紙を中心に21年間新聞記者をつとめ、現在はフリーランスです。
立ち位置としてじ手は最もキャリアが長い介護系が中心で、企業のホームページ等に掲載する各種コラム、社長や社員インタビューのほか、企業のリリース作成代行、社内報の作成支援などを行っています。

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