介護以外について

日本一のダート(未舗装)林道!

四国の山懐へ

「剣山スーパー林道」。
二輪四輪を問わず、オフロード走行に興味がある人は、その名を一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
四国は徳島県の中央部、四国最高峰の剣山の山裾を東西に貫く林道をそう呼びますが、どこが「スーパー」なのかというと、全長何と87.7キロ、しかもその大部分が未舗装(ダート)!という、現代日本ではめったに見られない日本最長、日本屈指の林道であることがそのゆえんです。
オフロードバイクに乗る身として、この日本一の林道にいつかは行きたいと思っていましたが、いかんせん私の125ccのバイクでは明石大橋や瀬戸大橋は通れず、瀬戸内海を渡って四国に行くには神戸か和歌山から出ているフェリーしか手段が無いこともあり、なかなか行く機会も無く、そのまま憧れで終わるかと思っていました。


そんな時に下った「御坊勤務」の辞令。ちなみに御坊市から徳島行きフェリーが出ている和歌山港まで約70キロ。
そして徳島港から剣山スーパー林道の起点まで約40キロ、午前のフェリーで徳島に渡れば、午後には林道に着くことが可能です。
たまたまとはいえ、遂に巡ってきたこの機会。春の通行解除を待ち(剣山スーパー林道は12月~3月末まで全面通行止め)、天気予報を十分に確認してから、後部座席にキャンプ道具一式を積んで、日本一と言われるその林道を目指しました。

意外と近い

4月中旬の晴れた朝に御坊市を出発し、和歌山港10時半発のフェリーに乗り込みました。
ここから徳島港まで2時間半の船旅です。
この日バイクで乗船したのは私も入れて4台。内2台はアメリカ製のハーレー、もう1台は地元のおばちゃんが乗るスーパーカブで、いずれも林道とは縁が無さそうです。
フェリーは基本自由席なので、デッキで過ごす人、雑魚寝スペースで昼寝する人、そして一般シートで本を読む人など、それぞれです。その日は快晴で、紀伊水道を行きかう船や淡路島など、景色もなかなか。プチ船旅もたまには良いものです。
そうこうしているうちに徳島港に到着しました。
 
林道に向かう前に、市内で食料品と飲み物を調達し、いよいよ剣山スーパー林道に向かいます。
徳島市を抜け、小松島市からは内陸に向かいますが、四国の山は思った以上に深く険しいため、海沿いの国道以外は結構細い道が続くこととなります。
それでも両脇には集落が続き、コンビニやガソリンスタンドなど、生活に必要な施設はそれなりに揃っています。

しかし、1時間も走ると、やはり人家も少なくなり、四国特有の山肌の高いところに集落がある状況に変わってきました。
四国の奥地に近づいていることが感じられます。

やがて上勝町に入りました。スーパー林道起点の町です。
林道には当然ながらガソリンスタンドなど無いので、林道起点に一番近いスタンドで満タン給油し、いよいよスーパー林道に向かいます。ここまで徳島港から1時間ちょっと。
意外と近いです。

舗装路からダートへ

スーパー林道の起点には、道路情報の看板と、木で出来た立派な道標がありました。終点まで87.7kmと記してあります。普通の舗装道路なら、そこまで長い距離とは思えませんが、この林道はそのほとんどがダート。
未舗装路をそれだけ長く走ったこともないので、その距離感がどの程度のものなのか図り知ることができませんが、まだこの時はそこまで深く考えていませんでした。
起点を過ぎて数kmは、道は細いですが舗装されています。ちなみにこの日本一の未舗装林道も、年々舗装区間が延びているそうです。
時代の流れとはいえ、地元の方の利便性を考えると仕方有りません。


標高がどんどん上がってきて、それにつれて木々の間から麓の景色が見えるようになってきました。
しばらく走ると分岐に到着。右は舗装路が続きますが、左は延々とダートが伸びています。
どうやらここが未舗装路の始点。
そうです、遂に本当のスーパー林道の入口に辿り着いたのでした。
 
この場所にどれだけ来たかったことか!くぅ~!
路面はフラットですが、粗めの砂利を敷き詰めたような感じで、ところどころにこぶし大の石がゴロゴロしており、スピードを出し過ぎるとバイクごと跳ね飛ばされる可能性もあります。
しかし急激なヘアピンも無く、まだ走りやすい部類のダートで、無茶さえしなければ林道初心者でも結構走れる道です。
そして何よりその眺望!
遠く徳島市まで見渡せるかと思われるその景色は、「来て良かった~!」と思わせるのに十分な雄大さです。
数多くのオフローダーがこの道に引き寄せられるのも頷ける景色が眼下に広がっています。

まさかの1人

左右に広がる四国の雄大な景色に見とれつつ、轍や砂利にタイヤを取られて滑りそうになりながら走ること約2時間。
途中、一部県道との重複区間がありましたが、午後4時少し前にその日のキャンプ予定地「ファガスの森 高城」に到着しました。
春とはいえまだまだ陽も短く、その頃には山際は夕刻の雰囲気を醸し出し、空気も少し冷えてきていました。
管理人さんにキャンプ代500円(安い!)を渡すと、管理人さん曰く、「今日はあなた1人だから、寒かったらそこにある毛布とか使って良いからね~」と。
え?1人?


そう言えばここに来るまで、ほとんど誰ともすれ違いませんでした。
ここにも他にお客さんが居る気配がありません。
管理人さんは4時過ぎには麓の自宅に戻るとのこと。
となるとあとは完全に私1人です。ちなみに電気は来ていません。
「テントは好きなところに張っていいから。トイレと洗面所はここ。」と、簡単に説明をすると、管理人さんは帰り支度をし始めました。四国最深部でまさかの単独キャンプです。
山の夕暮れは早く、次第に日が陰ってきました。テントを建てて荷物を片付けると、もう薄暗くなっています。聞こえるのは鳥の声?だけ。大自然に包まれていることが実感できます。
 
が、夜はこれからです。
街で仕入れたカップラーメンを食べ、コーヒーを飲む頃には、辺りはすっかり闇に包まれました。漆黒の闇です。
風の音以外、何も聞こえず、ただ標高1200mの夜空は星がとても近くに感じられます。近くに誰もいない状況は非常に心細く感じましたが、昼間の疲れもあったので、その日は早くに就寝することにしました。
しかしこれだけ孤独な状況ではなかなか寝付けません。少し強くなりつつある風の音にビビリながらも、しばらくするとうつらうつらとしかけました。


ふと、夜半になぜか目が覚めました。耳を澄ましても、何も音はありません。しばらくすると鳥か何か動物の鳴き声のようなものが聞こえてきました。不気味です。
外の様子が少し気になったので、テントから顔を出してみました。
さすがに寒く、冷気がほほを刺します。周囲は漆黒で、星明りで山の稜線が薄っすらと分かる程度です。「寒~」と思いながらふと見上げると・・・
何とそこには空いっぱいの天の川!思わず見とれてしまう美しさです。
周りに何も明かりが無いことが、その美しさを際立たせます。今まで見たことも無いような満点の星空に、それまでの心細さも忘れ、しばらく見入ってしまいました。

しかしそのあと、人間一度目が覚めるとすぐには眠れないものです。テントに戻り、何度も何度も寝返りを打ちましたが、少し寒かったせいもあり、なかなか寝付けません。
そうこうしているうちに東の空が少しずつ白み始めてきました。
意を決して起床することとし、お湯を沸かしコーヒーを淹れた頃、朝日が昇ってきました。澄んだ朝の最高の日の出、おごそかな気持ちになります。思わず手を合わせると、今日一日の旅の無事を祈りました。

剣山の麓へ

ファガス高城の管理人さんの朝は早く、6時半には山に登ってこられました。キャンプのお礼を言うと、そこから剣山スーパー林道を再び走り始めます。
しばらく走ると広場のようなところに出ました。見ると「徳島のヘソ」との看板が。
徳島県の重心にあたるところとのこと、なるほど、ぐるりとパノラマ的に四国山地が見渡せる、素晴らしい眺望が広がっています。


林道は剣山を形成する山々の中腹を縫うように延々と続いていきますが、そのほとんどが崖を削って造ったような道で、落石も多く、片側は「落ちたら死ぬ」クラスの崖下となっています。
ところどころに「携帯電話使用可能場所」の看板がありますが、少しでも離れるとすぐに圏外になるので、崖下に落ちると恐らく助かりません(実際、転落死亡事故も起こっているようです)。とはいうもののフラットな路面なので、スピードを出しすぎたり、脇見したりしない限りは、そこまでダートに慣れていない人でも走れるような道です。
しかしやはり日本最長の林道。広がる風景は全て絶景ではありますが、未舗装路を数十キロも走ると、腕や肩や腰に疲労がたまっていきます。
ただ、岩とそこに張り付いた植物が造る奇景や、高低差のある滝、透き通るような谷川とそして山肌を彩る高山植物と、その絶景の連続に、疲れも忘れて走り続けることができました。
 

しばらく走ると、目の前に高い山が見えてきました。
頂上付近に高木の無いその山は紛れも無く剣山、想像とは違い剣のように尖ってはいませんが、一段と高いその山容には何か神々しさを感じます。
その剣山を横目に、そしてやはり切り立った断崖に築かれたダートを、125ccのオフロードバイクは進んで行きます。
走り始めて約2時間、剣山トンネルの手前にある「剣山山荘」に着きました。
なぜか入口にはスピルバーグ映画の「ET」のぬいぐるみが。
その横にトンネルがあり、山の向こう側へと林道は続いています。
山荘の主人に伺うと、『バイクならあと数キロ、トンネルを越えた先にある通行止めの看板まで走れるよ』とのこと。ならばと、主人に御礼を言って、そのままトンネルを越えて走り始めました。
トンネルの反対側は少し坂がきつく高低差があり、今までより少し道が荒れていました。やはりここまでは来る人は少ないようです。しかし景観はなかなかのものです。


「だいぶ終点に近づいたかも」と思ったとき、通行止めの看板が出現しました。
その先も同じような道が続いているように見えますが、情報では大規模な崩落が発生しており、復旧がいつになるかは分からないとのこと。
確かに山腹の傾斜がきついので、一度山崩れが起きると、直すのはかなり厳しいように見受けられます。
というわけで、今回の剣山スーパー林道はここまで。ここが終点です。
出発点からおよそ80キロ?で、スーパー林道の約9割を走破しました。振り返るとそこには先ほどとはまた少し違って見える剣山の山容が。
そして今来た道がクネクネと続いています。

ガソリンがっ!

Uターンしかけた頃には、まだ午前中とはいえ、陽がかなり高くなっていました。
しかしこれまでのペースなら、夕方4時半に徳島港を出るフェリーには余裕で間に合いそうです。
「残り半分、気を付けて走らないと」と気を引き締めましたが、しかしこの頃から少しずつガソリン残量の心配が出てきました。
普段なら問題なく走れる距離ですが、ここは標高1,000mを越える高地。
高低差もあり、急なカーブもあり、どうしてもアクセルを開閉する機会が多くなります。
しかもダートなので、普通の道よりも回転数を高めに走る必要もあります。加えて25年前に作られた私のバイクの燃費は決して良くありません。


ファガスの森に戻り、ガソリンスタンドの状況を聞いてみると、今日は日曜日なのでほとんどのスタンドは閉まっているとのこと。
林道からは外れるものの、ここからそれなりに近いと思われるスタンドは全て休業しており、しかも昨日林道に入る直前に寄ったスタンドが営業しているかどうかは不明とのこと。かなり不安です。
思案の結果、林道を外れることはせず、一番可能性のある林道起点付近にあったガソリンスタンドに賭けることとし、改めて林道を走り始めました。
案の定、復路がまだ30キロほど残っている地点でリザーブタンクになりました。
これはもしかするとギリギリ、走り方によってはガス欠です。
この時点で緊急予備タンクを持って来なかったことを心底悔やみましたが、今更どうしようもありません。
それから後は景色やダートを楽しむというより、ただアクセルの開閉を極力少なくした燃費走行に集中し、ひたすら林道起点にあるガソリンスタンドを目指しました。


そういう状態になると、とても目的地が遠く感じます。
「こんな場所走ったかな」とか「こんなに高低差あったかな」とか「まだ着かへんの?」等々思いながらひたすらガソリンスタンドを目指しますが、なかなか辿り着けません。そのうち・・・
「あ~~・・・」
ついにエンジンから変な音がしてきました。経験上、これはガス欠になった音に相違ありません。
「ついに・・・きたか」。鈍い音を立てつつ数10m走ったあと、エンジンは停止しました。かなり下って来ましたが、まだガソリンスタンドは見えません。
幸いにもその辺りは下り坂なので、惰性で走ることができましたが、しかしこれであのガソリンスタンドが休業していたら・・・。
とりあえず極力ブレーキをかけないようにして、惰性のスピードを落とさないように坂を下っていきました。

数百メートルも走ったでしょうか。山裾の向こうに民家、そしてガソリンスタンドが見えてきました。
「やった!着いた!どうか開いていて下さい!」
願いが通じたのか、有難いことにスタンドは営業中でした。これで一安心です。
ガス欠から数百メートル、下り坂とはいうものの、長い長い数百メートルでした。これが下り坂でなかったら、もしくはもっと距離があったら、はたまたガソリンスタンドが休業していたら、その日は間違いなく徳島山中で再びキャンプとなっていたところです。

エピローグ

ガソリンを満タンにして、少し遠回りして徳島港に戻りました。
港には既に大勢の和歌山行きのお客さんが列を作っていました。バイクも行きのそれとは全然違い、20台くらいが並んでいました。
ゆっくりと港を離れた頃には、陽もだいぶ落ちてきました。振り返ると、今日走ってきた剣山を含む四国の山々がだんだんと黒い影になっていきます。そのど真ん中で1人キャンプを張ったのがうそのように思えます。

「なかなか楽しかった。スーパー林道が全面復旧したら、また来よう。」
ダートだけで往復160キロほどあった日本一の林道は、また来たいと思わせるような、そんな魅力に溢れた道でした。

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