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酷道425号線

酷道って何?

『酷道』。それは国が管理する「国道」に「酷い(むごい)状態の道」を掛けた言葉で、その名の通り非常に狭かったり、路面状態が悪かったり、およそ国が管理する道路らしくない道のことを言います。
この酷道、日本全国至るところ、特に海辺や山深い地方に数多く存在しており、検索するとそれこそ写真や走行記など非常に多くのサイトが出てきて、そういう道に興味を持っている人が多数存在することが伺い知れます。そしてその酷道のなかでもトップクラスの酷道が和歌山県にあります。

和歌山県御坊市。私は縁あって昨年からこの地に単身赴任しているのですが、実はこの地は酷道マニアも垂涎の日本三大酷道のひとつ、「国道425号線」の始点の街です。

ちなみにウィキペディアでは『国道425号線は御坊市から三重県尾鷲市まで、紀伊半島を東西にショートカットして、紀伊山地を山越えする(総延長194キロ)、俗に言う「酷道」のひとつにあげられている道』と記載されていますが、それだけ見ると「山の中の道?」と漠然は感じるものの、酷道具合のイメージはあまり沸きません。

どんな道か…と言うわけで、93年式DT125Rというオフロードバイクを駆り、行ってみました。果たしてそこに待ち受けていたものは…!

紀伊山地の奥地を目指す

国道425号線は、御坊市南部にある日高港の入口と、紀伊半島のメインルートである国道42号線との交差点から始まります。港からは、晴れた日には四国も見える穏やかな海辺がスタート地点です。

その日は良い天気で、バイクツーリングにはうってつけの日でした。日高港を走り出してしばらくは2車線のワインディングロード、およそ酷道のイメージがない快走路が続きます。しかし、山肌が徐々に迫ってきて、紀州山地の懐深くに近づいていることが窺い知れます。
「酷道と名高い425号線の真の姿は、どこから始まるのだろう…」そう思いかけてきた頃です。いきなり道が細くなり、1車線となりました。

「ついに来たか」
その狭い道は集落を抜け、山の中へと続いていきます。これだけでも普通は国道と思えませんが、しかし最初の印象は、「四国とか北陸にもある国道と同じくらいかな。日本三大酷道というのは、ちょっと大げさでは」というものでした。確かにカーブだらけで見通しも悪く、道も細いのですが、対向できなくはありません。しかも思いの外きれいな舗装がしっかりされており、スピードにさえ注意すれば普通に走れそうな感じです。

「酷道とはいえ、やはり国が管理する道路。林道と違いしっかりメンテナンスされているな」
と思っているうちに、幅の広い道に合流しました。ここから龍神温泉の手前まで、別の国道との重複区間になります。この重複区間は2車線の快走路。快適にクルージングすることができます。

「交通量も少ないし、信号も少ない。空気も景色も良いし、最高のツーリングかも」
フンフンフ~ンと鼻歌混じりに走っていくと、龍神温泉手前で分岐点に到着しました。一方は龍神温泉から高野山方面との看板。もう一方は国道425号線になりますが、そこには「十津川方面 幅員狭小」、「大型バス通行不能」、「本宮方面は国道311号へ」、そして「時間制限通行止」など、普通に二の足を踏むような文言がずらずらと並んで掲げられています。しかし、その場所は非常に立派なトンネルの前で、その向こうにも同じような2車線の道が続いています。
「・・・そのうち狭くなるということかな。」
と、合流前の425号線の姿を思い出しつつ、あまり深く考えずに425号線方面へと向かいました。

本当の酷道425号が始まった

「!」
いきなり道路と周囲の様子が変わりました。急激に道幅が狭くなってきたと思うと、「この区間 転落死亡事故多発 気をつけて通行して下さい」との赤い大きな看板が。そしてその脇には「急峻部で道路幅員も狭いため、別の道をご利用下さい」とUターンを勧める看板が。
そうです、酷道425号線の本当の本番はここからなのでした。

しばしバイクを停めて辺りを見回していましたが、反対側から来る車両は一切ありません。「こんな天気の良い日に対向車が無いとは…」
その理由はすぐに分かりました。普通乗用車もどうかという程度の道幅で、車同士がすれ違えるスペースは全くありません。片方は延々と崖、もう片方は谷底です。しかもガードレールが有りません。舗装は荒れ、亀裂が走り、陥没箇所もあります。道路表面には無数に落石があり、しかもところどころ崩落により道幅が極端に狭くなっていたりします。そのうえ山の湧き水か何かで道路が川のようになっている箇所もあり、非常に滑りやすくなっています。

「これはなかなか・・・」
スマホや地図でみると、一応国道ということもあり、大きく紀伊半島南端を迂回するより、直線的(に見える)この国道の方が三重県尾鷲市まで早く行けるように思えますが、しかし林道に慣れている人でさえシビアと思える道です。
山裾を谷川に沿って伸びている道は、真っ直ぐな箇所がほとんど無く、カーブに次ぐカーブ、そして高低差もかなりあります。見通しは極めて悪いため、対向車が来ても全く分かりません。カーブミラーはほとんど無く、たま~に忘れたかのように有ったりしますが、有っても錆びてくすんでいます。そしてやたらめったら出てくる「転落 死亡事故多発」の看板。「落石注意」の看板よりよほど多いです。
実際、この道に迷い込んで崖から転落する事故も多々あるとか。例えジープのような四輪駆動車であっても、四輪車はまず避けた方が無難でしょう。私なら絶対に走りません。

「これを国道というには厳しい!素直に林道って言えば良いのに・・・」
延々と続く道は、軽トラが木材運搬に使う程度の痕跡が残っています。しかし、林道と思うと逆に開き直れるような感じで、オフローダーにはそれなりに楽しめる道ともいえます。
「林道と思えば、それなりに楽しめるかな」
その時はまだそんな悠長な事を考えていましたが、実は国道425号線の試練は、まだまだここからなのでした。

酷道425号 激走編

「本当に、どこまで続くのこの道・・・」
精神的にも肉体的にも疲れが出てきましたが、しかしまだ人里の気配はありません。しかも携帯が通じないため、正確な位置も分からない状況。何より龍神温泉からの数10キロは、道路崩壊箇所、水溜り、落石、そして数限りないブラインドコーナーの連続、なかでも和歌山県と奈良県の県境までにすれ違った車は0台と、十分に不安にさせる材料が揃っています。

「ここで川に落ちても、絶対に見つからへんやろな」
バイクに乗り始めて最初の頃の、滋賀県南部の信楽の山中で川に落ちた記憶が蘇って来ます。その時はたまたま近くで山仕事をしていた人に見つけてもらい、里に降りるのを手伝ってもらうなどして、難を逃れました。しかしここはレベルが違います。人里まで何十キロあるか分かりませんし、それこそ人が通らない可能性も十分に有ります。運よく通っても、見つけてもらえるかどうか…。不安材料は桁外れです。

酷道425号 疲労編

和歌山県と奈良県の県境を過ぎてどれほど走ったでしょうか。奈良県に入ると舗装がある程度しっかりとしてきました。また、周りの建物は廃屋がほとんどとはいうものの、そこはかとなく人の活動の匂いもしてきました。御坊市から100キロは走っているので、もうそろそろ十津川温泉くらいに着いても良いはず・・・。と思っているうちに、人が生活する家が出てきました。どうやら十津川温泉にたどり着いたようです。

ここで違う国道と合流し、しばし複合区間が続きます。その道も普段なら「狭い道やなぁ」と思うような道ですが、すれ違いが十分できる道なので、ここまでの道と比べると高速道路のような道です。しばし休憩を取り、喉を潤すと、ちょっと気持ちを楽にすることができました。

が、走り始めると束の間の安息はすぐに終わりました。分岐が見えてきて、再び幅1車線だけの425号が始まります。奈良県側は和歌山県側の道路状況よりはかなり良いとはいえ、やはり川や崖に沿ったブラインドコーナーの連続で、緊張を強いられます。しかも十津川を過ぎてからは対向車も現れ、より注意力も必要とされます。何より、既に和歌山県から100キロほど走ってきた者にとっては、精神的にも体力的にも相当な疲労が蓄積されています。
この頃には既に鼻歌を歌う余裕も、走りや景色を楽しむ余裕も、一切が奪われ、あとはただ「尾鷲まで辿り着きたい」という、意地だけが残っていました。
 

国道425号線はやはり酷道でした

下北山村を過ぎました。ダムの横を延々と走りますが、また道が少し荒れてきています。

その頃にはただひたすら尾鷲を目指すだけの、疲れた身体に鞭打ちつつ移動している、単なるバイクのおっさんが1人いるだけでした。鼻歌なんか歌う余裕は全くありません。腰や肩はガチガチ。目も充血してしょぼしょぼ。あとは、とにかく我慢できないほどお尻が痛い!陽も陰りかけてそれだけで心細いです。すれ違う車の数も相変わらずほとんど無く、またもや谷に落ちた場合の心配が頭をよぎってきます。もうこの頃には、疲れと寒さと痛さで、思考能力がかなり下がっていたように思われます。

「あ、何か開けてきた」そう思った瞬間、高速道路の下をくぐり、街に出ました。そうです。遂に425号の終点まであと少しの地点に来たのです。所要時間は休憩も入れると、約7時間。もう少し早く走れるかと思いましたが、やはり甘くありませんでした。

そうこうしているうちに国道42号線との交差点に到着。ついに完全走破です。
「やった~~~っ!!」という感激とともに、ものすごくグッタリとした疲れに襲われました。予定ではこの後、紀州半島を海から回って御坊市まで戻るつもりでしたが、そんなこととてもとても…できません。その日は尾鷲で安宿を探し、風呂もそこそこに、泥のように寝入ったのでした。

今回得た教訓としては、「酷道走破を1日で考えるのは避けるべし!」です。特に国道425号線クラスの国道は十分下調べをしてから臨んだ方が良いでしょう。もしもこの道を走破しようと考えられるのなら、可能なら十津川か熊野か、近くの温泉で途中一泊することをお薦めします。そう思わせるほど、国道425号線は酷道なのでした・・・。

でもまたいつか、この魅力溢れる酷道を、今度は逆方向から攻めてみたいと思います。

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この記事を書いたコラムニスト

望月 直樹 (モチヅキ ナオキ)

オーバーフィフティーライダー

バイクが好きです。
(高校生から乗ってます。もう35年!!)
今も和歌山と滋賀の山奥を中心に、色んな所をツーリングしてます。
サッカーも好きです(見る方)。
ゴルフも好きです(下手の横好き)。

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