介護保険法改定(経営者向け)

介護保険事業における「行政監査リスク」──加算・減算をめぐる実務と経営インパクト

はじめに

介護保険事業を運営するうえで、行政監査リスクは経営者にとって避けて通れないテーマです。

特に報酬の加算・減算に関するリスクは、事業収益に直結するだけでなく、場合によっては事業継続そのものを揺るがす重大な問題となります。

本コラムでは、行政監査の流れや加算・減算リスク、実際の事例を交えながら、経営者として押さえるべきポイントを解説します。

1.行政監査とは何か

行政監査は、介護保険法に基づき、都道府県や市町村が介護サービス事業所の運営状況を調査・確認する制度です。

監査の目的は、適切なサービス提供と介護保険財政の健全性確保にあります。

不正請求や運営基準違反の疑いがある場合、帳簿や記録の提出命令、立入検査、関係者へのヒアリングなど、強い権限が行使されます。

監査のきっかけは、定期的な運営指導のほか、利用者や家族、従業員、地域包括支援センターなどからの通報、データ分析による異常検知など多岐にわたります。

リスクの本質としては、以下のようなことが考えられます。

(1)加算要件未達にもかかわらず加算請求
不正請求となり、返還命令・行政処分の対象。

(2)減算条件該当にもかかわらず減算せず請求
過大請求となり、同様に返還・処分リスク。

(3)要件を満たしているのに加算を算定しない
収益機会の逸失。

2.訪問介護事業における具体的な行政監査事例

特に住宅型有料老人ホーム事業を実施している事業者の皆さんを対象に、「訪問介護事業」における加算・減算事例の深掘りをおこなっていきます。

訪問介護事業は、加算の取得による収益向上と、減算リスクの回避が経営の安定に直結します。

加算は国が推進するサービス水準や人材確保、質の向上を評価するために設けられ、減算は基準未達や運営上の問題がある場合に適用されます。

(1)主な加算とその取得要件・実務リスク

①特定事業所加算(Ⅰ~Ⅴ)  
取得要件は、サービス提供責任者の配置、研修実施、24時間対応体制などがあり、加算率は(Ⅰ)で6.44%(Ⅱ)で29.53%となります。             
要件未達での請求は不正請求となり、返還や指定停止のリスク

②初回加算            
取得要件は新規利用者への初回サービス提供時となり、加算率は53.41%となります。 記録不備や要件誤認による請求ミスに要注意です。

③生活機能向上連携加算        
取得要件はリハ職等との連携・計画作成で、取得率は(Ⅰ)0.22%となります。  連携実績や記録が不十分な場合、監査で返還命令対象となります。

④深夜加算・夜間加算         
取得要件は指定時間帯のサービス提供となり、加算率は、 深夜15.75%、夜間62.60%となります。
サービス提供記録の時間誤記や二重請求に注意が必要です。

⑤介護職員処遇改善加算        
取得要件は職員への処遇改善計画の策定・実施であり、加算率はⅠ:75.00%となります。  配分ルール違反や実施記録不備で返還命令となります。

(2)主な減算と適用リスク
減算名、内容・要件 適用率、 主なリスク・事例

①同一建物減算
同一建物で複数利用者にサービス提供時で90%以上の場合25.45%減算となります。該当利用者の誤判定や減算漏れによる過大請求に要注意です。

②業務継続計画未策定減算(BCP減算)
BCP未策定時に減算となります。2025年4月~適用で、BCP策定遅延で自動的に減算適用となります。

③高齢者虐待防止措置未実施減算
虐待防止体制未整備時に減算となります。2025年4月~適用で、体制構築・研修未実施で減算対象となります。

④共生型訪問介護減算           
障害・介護の共生型で要件未達時に対象となります。減算でほぼ0%となります。サービス種別の誤請求に注意が必要です。

3.具体的な行政監査・指導事例

(1) 特定事業所加算の不正請求
サービス提供責任者の配置要件や研修実施記録が不十分なまま加算を請求し、監査で発覚。過去2年分の加算返還命令と、指定停止処分を受けたケースが報告されています。

(2) 同一建物減算の適用漏れ
サービス提供記録の管理ミスにより、同一建物内の複数利用者へのサービスで減算を適用せず請求。監査で過大請求が判明し、返還命令と指導を受けた例があります。

4.実務上の注意点と経営アドバイス

加算取得時は、要件を満たすだけでなく、証拠となる記録や研修実施記録、職員配置表などを厳格に管理することが不可欠です。

減算リスクは、制度改定や運営基準の変更を常にキャッチアップし、該当する場合は速やかに減算処理を行うことが重要です。

BCPや虐待防止体制など、国の政策的重点が置かれている分野は特に監査が強化されており、体制整備と記録管理が必須となります。

内部監査や第三者チェックを定期的に実施し、加算・減算の適正運用を徹底しましょう。

まとめ

訪問介護事業は、加算・減算の適正運用が経営安定のカギです。

加算要件未達や減算漏れは、行政監査で重大な指摘を受け、返還命令や指定停止などの経営リスクに直結します。

制度改定や監査動向に敏感に対応し、現場と管理部門が一体となってリスク管理を徹底することが、持続的な事業運営のために不可欠です。


介護の三ツ星コンシェルジュ

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