施設運営

「この人らしさ」を大切に。定時ケアの中に個別ケアを取り入れるには

介護の現場では、業務の効率や安全性の観点から、「定時排泄」や「定時起床」など、時間に沿ったケアが長年当たり前のように行われてきました。

だけど、本当にそれが利用者一人ひとりにとって心地よいケアになっているのでしょうか?

「この人はまだ寝ていたいんじゃないか」
「今じゃなくて、あとでトイレに行きたいのかも」

日々の業務の中で、そんな小さな違和感を覚えることがあります。

今回は、僕自身が働く老健施設での取り組みをもとに、定時ケアの中に「個別ケア」をどう取り入れるかについて、実体験を交えてお話しします。

「このやり方でいいのかな?」という違和感

僕の働く老健では、定時になると利用者様を同じテーブルに集め、順番にトイレ誘導を行っています。4つのトイレを使って一斉に声をかけ、できるだけ効率よく進めるのが日々の流れです。

けれどもそのたびに、「早くしてよ」「私が先でしょ」と怒り出す方や、「今は行きたくない」とはっきり断る方がいます。

実際に誘導しても排尿がなかったり、逆にパットがいつも濡れていたりして、「このタイミングって本当に合ってるのかな?」と疑問に思うことも。

排泄のタイミングは本来、人それぞれ違うはず。

そうした「ちょっとしたズレ」を日々感じながら、「このやり方で本当にいいのだろうか?」という思いが、次第に強くなっていきました。

当施設で始まった“小さな個別ケア”

僕の働く施設では、これまで当たり前だった「一斉の定時排泄」を見直す取り組みが始まりました。

すべてを一度に変えるのではなく、まずは「行きたいときに行ける排泄ケア」を目指し、定時誘導を基本としつつも、利用者様の様子や訴えを大切にしながら個別対応を取り入れています。

具体的には、定時誘導が必要な方には今まで通り声をかけつつ、それ以外の方については「今、行きたいです」といった本人の訴えや表情に合わせて誘導しています。

その結果、トイレの回数が増えた方もいれば、逆に減った方もいます。思った以上にトイレのタイミングが人それぞれであることに、あらためて気づかされました。

もちろん、食事中や他の介助とタイミングが重なると大変な面もあります。
ですが、そうした中でも僕たちは、できるだけ利用者様の負担やストレスが減るよう工夫をしています。

たとえば、トイレの近くに座席を調整する、自走できる方にはなるべく自分で行ってもらうといった小さな配慮の一つです。

大きな変化ではありませんが、こうした積み重ねが“その人らしさ”を守るケアにつながると信じています。

個別ケアで利用者様に起きた変化

個別ケアの取り組みを始めてから、利用者様の表情や言動に少しずつ変化が現れてきました。

たとえば、以前は定時排泄のたびに「早くしてよ」「私が先でしょ」と不穏になっていた方が、自分のタイミングでトイレに行けるようになると、苛立ちが減り、穏やかに過ごせる時間が増えました。

また、「今は行きたくない」とはっきり断っていた方も、無理に誘導されることがなくなったことで、職員への警戒心が和らいだように感じます。

日々の中で、「行きたいときに行ける」という当たり前のことが、本人にとってどれだけ大切だったのかに気づかされました。

もちろんすべてが理想通りに進むわけではありません。
利用者様の「選べる自由」が少しでも広がることで、その人らしい生活が取り戻されると感じています。

まとめ:できるところから個別ケアを実践

正直に言えば、介護職としては業務の効率を優先したいという気持ちもあります。

効率よく動けた方が、自分の負担が減る。時間に追われる日々の中では、それが現実的な選択です。

でも一方で、個別ケアはやっぱり利用者様のためになる。
本人のリズムに合わせたケアができたとき、表情が柔らかくなったり、安心した様子が見られたりすると、「やってよかった」と心から思います。

個別ケアを実践することで、介護職の負担が増えることもあります。

それでも、僕たちの仕事の本質は「利用者本位」。

すべては無理でも、できるところから、ほんの少しずつでも、個別ケアを実践できたらと思います。


介護の三ツ星コンシェルジュ

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