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高齢者虐待件数 前年比31%増の異常事態 原因は人材不足?ストレス?

 厚生労働省が2024年12月27日に発表したデータよると、2023年度に発生した介護サービス事業所で働く人たちによる高齢者虐待件数は1123件。

 前年度比で31.2%も増加しました。
行政などの窓口に寄せられた虐待に関する相談・通報件数も前年度比で23.1%増の3441件となりました。

 ちなみに、家族や親族といった、いわゆる「ケアラー」による高齢者虐待件数も増えてはいますが、前年度比で2.6%増に過ぎません。

 なぜここまで介護職員による虐待が増えたのでしょうか?

 まず考えられるのが人材不足です。
「介護職としての素養に欠けると思われる人でも採用せざるを得ない」「虐待防止に関する教育・研修を行っている余裕がない」「退職してしまうと人員配置基準を満たせなくなるので、虐待が起こっても注意・処分できない」などといった現実があるでしょう。

 そして「虐待の可視化」です。
ここ数年、パワーハラスメントやセクシャルハラスメントのように「それまでは、社会や組織の中で当たり前だと思われていたことが、実は問題行為である」とされるケースが増えています

 虐待も同様で「『施設の中で笑いをとろう』と利用者をいじる」ことなどはNGという認識が根付きました。以前に比べ、虐待とみなされる言動の範囲がずっと広くなっています。

 また、そうした行為が行われている場合、行政などの通報・相談窓口に加え、SNSなどを通じて告発することも可能になったことで、以前に比べて虐待が発覚しやすくなったと考えられます。
 
 また、2023年度という時期からは「新型コロナの5類移行」も原因として考えられるのではないでしょうか。

 2023年5月以降、コロナに関する各種規制・制限は一切なくなりました。各種イベントや会合なども自由に行えます。

 しかし、介護現場では、利用者への感染防止を目的に自主的に厳しい規制・ルールを設けているところも少なくありません。

 私は2024年1月にある地方の県に仕事で行ったのですが、地元の介護事業者の中には、まだ「県外に行った職員は5日間の出勤停止」というルールを設けているところがありました。これでは旅行にもいけません。​​

「他の業界の人たちが旅行だ、飲み会だと楽しく遊んでいる中で、自分たちはそれもままならない」というストレスが、利用者にぶつけられている可能性も否定できません。

 ご存じとは思いますが、2024年の介護報酬改定ではごく一部のサービスを除き「高齢者虐待防止未実施減算」が新設されました。

〇虐待防止対策を検討する委員会を定期開催し、職員等に周知徹底を図る
〇虐待防止のための指針の整備
〇虐待防止のための研修を年1回以上実施
〇虐待防止措置を適正に実施するための担当者を定める

の4つの取り組みが義務化され、1つでも未達成の場合には所定単位数の1%が減算となります。

 このうち、研修の実施については、「報酬改定1年後の2025年3月31日までは『それまでに研修を実施する予定』という介護事業者の発言を否定できない」という理由から、事実上の猶予期間となっていました。

 しかし、今年4月1日以降は、行政等の運営指導の際に未実施が判明したら減算対象となります。

 特に厚労省が冒頭で紹介したデータを発表したことで、自治体が虐待防止の取り組みを行っているかについて細かくチェックをしてくることも考えられます。
現在未実施の事業者は、必ず3月末までに研修を行いましょう。

 ちなみに「具体的にどのような研修をしなくてはいけないか」といった点までは規定されていませんので、朝礼やカンファレンスの際に「虐待はしてはいけません」と言うだけでも形としては「実施した」ことになります。

 しかし、これでは実施の証拠を示せません。研修資料など形に残るものを作成しましょう。


介護の三ツ星コンシェルジュ

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