トイレ誘導を拒否する利用者Aさんへのアプローチ
介護の現場では、利用者一人ひとりの個性や感情に寄り添った対応が求められます。
特に認知症を抱える高齢者の場合、そのプライドや自尊心を尊重しつつ、適切なケアを提供することが重要です。
今回は、排泄介助を拒否する90代の女性利用者Aさんとの関わりを通じて、信頼関係を築くための具体的なアプローチ方法をご紹介します。
Aさんの基本情報と課題
Aさんの基本情報
・年齢・性別:90代の女性
・健康状態:認知症あり、歩行はおぼつかないが可能
・聴力:難聴
・排尿機能:排尿障害により尿意を感じられず、常に失禁している
課題
Aさんは定期的なトイレ誘導が必要ですが、プライドが高いため、声をかけると拒否したり怒ったりすることがあります。また、耳が遠いため、こちらの伝えたいことがうまく伝わらないことも多いです。
「トイレに行きましょう」と声をかけると「いいです」と断られ、何度も促すと怒り出します。「パッドを交換しましょう」と言うと「なんで?」と問い返され、「汚れているからです」と説明すると「汚れてない」と怒り出してしまいます。
原因と考察
Aさんが排泄介助を拒否する主な原因は、その高いプライドにあります。
彼女は自分でトイレに行けると信じており、他人の助けを必要としていないと思っています。しかし、排尿障害により尿意を感じられず、失禁していることに気づいていません。
そのため、介助の提案が自尊心を傷つける結果となり、拒否や怒りへとつながっています。
また、職員によって、トイレ誘導ができる職員と出来ない職員がいます。上手に誘導できる職員は、笑顔で話しかけ、冗談を交えながら接しています。
その結果、Aさんも心を開き、笑顔で応じることができます。一方、接し方がうまくいかない職員に対しては、Aさんは真顔で接し、コミュニケーションが円滑に進みません。
さらに、耳が遠いためにコミュニケーションがうまく取れず、誤解が生じやすい状況もあります。
対策
Aさんへのアプローチとして以下の取組をしました。
まず、言葉遣いの工夫です。
Aさんは「トイレ」という言葉に強い拒否感を持っているため、その言葉を避けるようにします。
たとえば、「お薬を塗るので一緒に来ていただけますか」と誘導すると、抵抗なくトイレへついてきてくれました。
このように、直接的な表現を避け、間接的な言い回しを使うことで、Aさんの自尊心を傷つけずに目的を達成できます。
次に、コミュニケーション方法の改善です。
耳が遠いAさんには、携帯用のホワイトボードに文字を書いて見せると、こちらの意図が伝わりやすくなります。視覚的な情報を増やすことで、誤解や混乱を減らすことができます。
さらに、信頼関係の構築も欠かせません。笑顔で話しかけ、Aさんとの会話を楽しむことで、彼女も心を開きやすくなります。
信頼関係が深まれば、拒否や怒りの反応も少なくなります。
さいごに:明るく接するのが苦手な職員へのアドバイス
明るく接するのが苦手な職員もいるでしょう。僕も苦手な方です。
しかし、そのような場合でも信頼関係を築くことは可能です。
まず、丁寧な言葉遣いや礼儀正しい態度を心がけ、利用者への敬意を示しましょう。
穏やかな表情と落ち着いた声のトーンで話すことで、安心感を与えることができます。また、利用者の話に耳を傾け、共感を示す姿勢も重要です。
小さな気配りや丁寧な動作を積み重ねることで、信頼を深めることができます。丁寧なケアができれば、明るさに頼らずとも良好な関係を築くことはできます。
介護は技術だけでなく、心と心のつながりが重要です。一人ひとりの利用者に寄り添い、その人らしさを尊重することで、介護の質は上がります。
介護の三ツ星コンシェルジュ